小説「新・人間革命」 2013年 2月9日 法旗57

自分が弘教した人を、人材に育てようと、懸命に努力し、面倒をみていても、思うに任せぬこともあるだろう。
 山本伸一は、一人の人を一人前の信仰者に育て上げることがいかに大変かを、熟知していた。
 それだけに、弘教した相手が退転したからといって、自分を責め、苦しむことのないように、励ましたかったのである。
 「こちらは、精いっぱい手をかけ、真心を尽くした。しかし、それでも、退転してしまうケースもあります。
 それは決して、弘教した紹介者の責任ではありません。
 たとえば、一生懸命に橋を造った人がいる。この橋を渡れば、幸福に至ると教えているのに、渡りかけて、途中で引き返してしまう。
 それは、渡ろうとしない人が悪いんです。本人自身の問題といえます。
 したがって皆さんは、そうしたことで落胆する必要はありません。
 仏の使いとしての使命を果たそうと、苦労して折伏をしたという事実は、永遠に生命に刻まれ、功徳の花を咲かせます。自身の幸せへの軌道は、間違いなく開かれているんです。どうか、そのことを強く確信して、新しい気持ちで、晴れ晴れと、勇んで弘教に邁進していってください」
 広宣流布をめざし健気に活動する友の、心の重荷を取り除き、楽しく乱舞できるようにするために、励ましがあるのだ。
 「最後に、愛する、大切な愛媛の皆さんを讃え、歌を贈り、私のあいさつといたします。
  
  成仏の  幸の道あり  妙法の 千里の山も  功徳といざ征け」
 伸一は、このあと、「皆さんが喜んでくださるなら」と言って、何曲かのピアノ演奏を行った。
 さらに、役員らと庭に出て記念撮影をし、出発間際まで同志を励まし、午後一時五十分、愛媛文化会館を後にしたのである。