小説「新・人間革命」 2013年 2月11日 法旗58
松山駅から午後二時二十三分発の予讃本線(現在の予讃線)・特急「しおかぜ2号」に乗車した山本伸一は、香川県の高松に向かった。
車窓には、曇り空の下に、穏やかな瀬戸の海が広がっていた。
深い緑に染まった大小の島々が浮かび、一幅の名画のようであった。
“さあ、次は香川だ!”
胸を躍らせながら、伸一は思った。
“人生とは、一冊のノートに似ている。
日々、ページをめくると、真っ白な新しい空白が広がっている。
そこに、力の限り、大叙事詩を書き綴っていくのだ。
昨日も、今日も、明日も、あの人、この人に、励ましの声をかける。
肩を叩き、抱きかかえ、その胸に生命の共鳴音を響かせる。
幸福の道を示し、共に歩みを開始する。それが広宣流布だ! それがわが人生だ!”
彼は、思わず、すべての愛する法友たちに、心で語りかけていた。
“私は、見ている。見守っているよ。
弱ければ、強くなればよい。臆病なら、勇敢になればよい。
裸のままの、ありのままの自分でよい。その人が、法旗を手に敢然と立ち上がるからこそ、何よりも尊く、大いなる共感が広がる。
困難はドラマの始まりだ。逡巡は挑戦へのステップだ。苦闘は感動を生み出すためにある。
胸を張り、腕を振り、勇気の一歩を踏み出すのだ。時は今だ!”
伸一の瞼に、使命の法旗を翻し、広布第二章の決戦に馳せる師子たちの勇姿が浮かんだ。
彼は、逸る心で、かつて戸田城聖が詠んだ歌を思い起こしていた。
旗もちて 先がけせよと 教えしを 事ある秋に 夢な忘れそ
(この章終わり)