小説「新・人間革命」 勇将 40 2013年 3月30日

正午過ぎ、山本伸一は、四国研修道場を出発し、高松市福岡町の四国婦人会館を訪問した。
 婦人部の幹部から要請があり、訪問して、記念植樹を行うことになっていたのだ。
 この会館は、婦人会館になる前は、高松会館といったが、かつては四国本部として、全四国の中心となってきた建物である。
 会館の広間には、二百人ほどのメンバーが集い、伸一の到着を待っていた。
 「懐かしい会館です。では、一緒にお題目を唱え、それから記念撮影をしましょう」
 三回に分かれて写真撮影した。伸一は、皆を前に出し、自分は後列に立った。
 「先生! 前列の真ん中にいらしてください」という声があがった。
 「いいんです。皆さんを守るのが会長なんですから、後ろから見守っていたいんです」
 撮影のあと、伸一は、子どもたちは前へ来るように言った。幼児から高校生まで、三十人ほどが彼を囲んだ。
 「皆さんにお会いできて嬉しい。私は、後を継いでくださる皆さんがいるから安心なんです。
 お母さんやお父さんは、わが子の成長が最高の希望であり、最大の喜びなんです。だから、子どものために必死に働く。
 私も同じ思いです。
 皆さんのために働き、命懸けで道を開きます。最愛の子どもである諸君のためなら、何もいといません。何も惜しみません。 何も恐れません」
 スイスの大教育者・ペスタロッチは、子どもたちに呼びかけた。
 「友よ、兄弟よ、私の心は諸君に対する無限の信頼に高鳴っている」と。
 それは、まさに伸一の思いでもあった。
 その子どもたちのために、何をし、何を残すのか──常に彼は、そう自らに問うていた。
 伸一は、一人ひとりに声をかけ、好きな勉強や将来の希望などについて尋ねた。
 「みんなに童話を話してあげたいんだけれど、今日は時間がないんだ。
 また会おうね」 このあと桜を植樹し、婦人会館から二百メートルほど離れた四国文化会館に向かった。