小説「新・人間革命」 奮迅 31 2013年6月8日

西峯富美は、一九七八年(昭和五十三年)一月、向原支部の婦人部長の任命を受けるにあたって、一人ひとりを大切にし、功徳に満ちあふれた支部をつくろうと誓った。
 そして、皆が幸せになるためならば、なんでもしよう。どんな苦労も厭うまいと心に決めたのである。
 功徳を受ける道は、唱題と弘教以外にない――西峯は、そう皆に訴えていった。
 また、電話で済ますことができる用事でも、可能な限り直接会って話すように心がけた。
 それによって、相手のこともより深く知ることができるし、自分のこともよく知ってもらい、一段と親近感が増すからだ。
 相互理解も、友情も、団結も、すべては、会って語り合うことから始まる。
 そうした語らいを通して、彼女が強く感じたのは、体験談がどれほど多くの人を勇気づけ、信心を奮い起こす力になるかということであった。
 実は、向原支部で大ブロック担当員をしている大藪真利子という婦人の体験が、一月度の座談会用の体験談レコードとして全国に配布され、支部内でも大きな感動を広げていたのである。
 ――同居している姑との不仲。長男の病。会社の経営が行き詰まり、心労のために高血圧が高じて倒れてしまった夫……。
 それら一つ一つの試練と困難を乗り越え、幸せな和楽の家庭を築き上げた体験である。
 支部のメンバーは、身近な同志の体験に強く共感し、私も苦難を克服できないわけがない。
 胸を張って体験発表できるようになろう!と、唱題に、折伏・弘教に、喜々として取り組み始めた。
 そして、未入会の夫が信心を始めたり、事業の不振から脱した体験などが、次々と生まれていったのである。
 一つの功徳の体験は、友の心に、勇気と確信の火をともす。
 それがまた、さらに新しい体験を生み、組織中が功徳の喜びの光に明々と包まれていく
 ――これが、そのまま広宣流布の広がりとなるのだ。