若芽 11 2013年 11月1日

山本伸一は、教員たちに笑いながら言った。
「先生に間違ったことを教えられては困るので、今日は、私が授業をします」
そして、椅子から立って黒板に向かい、チョークを手にした。
──「さいた さいた さくらが さいた」
彼は、こう書き、児童たちに促した。「じゃあ、読んでください」
子どもたちは、元気な声で読み上げた。「うん。上手だね。よく読めたね」
子どもたちを讃えたあと、今度は、教員たちに語った。
「私が小学校の最初の授業で習った文章です。忘れないものなんです。
当時は、平仮名ではなく、片仮名で教わったけどね。
最初の授業というのは大事なんです。その時に、子どもたちが、「勉強って面白いな」と思えれば、しっかり学んでいくようになるでしょう。
反対に、「なんてつまらないのだろう」と感じれば、勉強嫌いになっていきます。何事も始めが肝心なんです」
語りながら、彼の脳裏に、小学一年生の思い出が蘇った。ある時、初めて作文を書いた。
担任の先生は、「とても上手に書けています」と褒めてくれた。嬉しかった。
さらに、学年で二人だけ選ばれて、その作文を発表することになった。
それが自信につながり、書くことに楽しさを感じるようになった。
伸一が後年、詩や小説などを好んで書くようになった淵源は、この時にあったのかもしれない。
教育者でもあったフィリピン独立の父ホセ・リサールは、「一度みんなの前でほめられた子どもは、次の日にはその倍も勉強して来ます」(注)と記している。
伸一は、児童たちに語った。
「皆さんは、黒板の文をとてもよく読めましたね。それは、よく勉強していたからです。
これから読めない字があったとしても、しっかり勉強していけば、必ず読めるようになるということなんです。皆さんは秀才です」
自信は、成長をもたらす力である。