求道11  2014年6月25日

一九五八年(昭和三十三年)六月、山本伸一は、新設された総務に就任する。
学会でた
だ一人の総務である。それは、第二代会長・戸田城聖亡きあと、理事長の小西武雄を支えながら、事実上、全学会を担い、一切の指揮を執ることにほかならなかった。 彼は、総務に就任するや、深い悲しみに沈む全国の同志の激励に回った。
北海道へ、関西へ、信越へ、九州へ、中部へ、東海道へ。そして、東北にも励ましの歩みを運んだ。 
十一月一日から三日にかけて、秋田、青森を訪問。さらに十九日には、福島支部の結成大会へ。翌二十日は、学会が建立寄進した寺の落慶入仏法要や秋田支部山形地区結成大会に出席するため、山形を初訪問した。
この時、野崎裕美も諸行事の女子部役員として、仙台から応援に駆けつけたのである。
伸一は、寺の落慶入仏法要が終わると、次々と役員の青年たちに、声をかけていった。
野崎には、こう励ました。
「ご苦労様! 何があっても負けないで、これからも、しっかり頑張ってください」
さらに彼は、青年たちと共に、近くを流れる馬見ケ崎川の河原に立った。
既に、夜の帳が下り、空には月天子が輝いていた。
「みんなで歌を歌おうよ」
「月の沙漠」などを、声を合わせて歌った。
伸一は、多くの女子部員がいることから、「人生の並木路」を歌おうと提案した。
この歌は、三七年(同十二年)に公開された映画「検事とその妹」の主題歌である。両親を亡くした兄妹が互いに支え合い、健気に生きていく姿を描いた作品であり、歌には、妹を思う兄の心情が託されている。
  
  生きてゆこうよ 希望に燃えて
  愛の口笛 高らかに
  この人生の 並木路
    (作詞・佐藤惣之助
歌いながら野崎は、勇気が湧くのを覚えた。
歌は、心を癒やし、希望を呼び覚まし、闘う魂を鼓舞する。歌声には大力がある。