求道19  2014年7月4日

山本伸一は、中津川美恵を包み込むように笑顔を向けた。 
「あなたは、ご主人亡きあと、立派に子どもさんを育ててこられたんですね。すごいことです。勝ちましたね。母は偉大です。
今日は、この東北平和会館でゆっくりしていってください。皆さんの会館ですから。
一緒に幹部会にも参加しましょう」
すると、中津川は、困惑した顔で答えた。
「でも、今日の幹部会は、支部婦人部長以上の方が対象だと伺っております。
私は大ブロック担ですから、参加することができないんです」
「大丈夫です。私がお願いし、許可してもらいますから、心配ありません。さあ、一緒に行きましょう」
幹部会参加者のほとんどは、既に会場に集合していた。
伸一は、会館のロビーに入ると、女子部の「白蓮グループ」の労をねぎらい、駆けつけてきた男子部の参加者にも声をかけた。
「一人でも多くの人と、言葉を交わして励まそう」──それが、彼の決意であった。
伸一は、いかにして組織に、温かい人間の血を通わせるかに、心を砕いていた。
物事を効率よく進めるために、組織では、いきおい、合理性の追求が最優先される。すると、すべては画一化され、次第に、その運営も、形式化、官僚化していく。
人間は百人百様の個性をもち、顔かたちも違えば、性格も全く異なる。その人間を画一的な枠に押し込めようとすれば、人びとの多様な個性は生かされず、組織から人間性の温もりは失われ、無味乾燥な冷たいものになってしまう。
しかし、組織が多くの人びとを擁している限り、どうしても、合理的に運営していかざるを得ない面もある。
そこで大事になるのが、一人ひとりに光を当て、各人を大切にしていく実践である。つまり、個別的な一対一の信頼関係を、組織のなかにつくり上げていくのだ。