求道44  2014年8月4日

六月十二日、十三日と札幌での諸行事に出席した山本伸一は、十三日午後四時、道東指導のために、飛行機で釧路へ向かった。道東の訪問は、十一年ぶりである。
伸一は、道東では開設五周年を迎える別海の北海道研修道場を初訪問し、地域広布の開拓者たちと会うことを楽しみにしていた。
搭乗機の窓外には、雲海が広がっていた。
釧路の空港は、霧のために、着陸できないことがよくある。
伸一は、同行していた、副会長で北海道総合長の田原薫に言った。
「曇っているけど、大丈夫かね」
「大丈夫です!」
田原の確信にあふれた声の響きから、伸一は、思った。
「道東の皆さんが無事到着を願って、猛然と唱題に励んでくれているにちがいない。だから彼は、安着を確信しているのだろう」
釧路上空にさしかかった時である。一瞬、道を開くように雲が割れ、釧路の街が見えた。
大自然の劇を見るかのようであった。
「これは、歴史的な瞬間だね」
田原は、「はい!」と、誇らかに胸を張った。
午後四時四十五分、釧路に着陸した。
空港から、北海道研修道場までは、車で百四十キロほどの道のりである。
伸一は、この道東でも、一人でも多くのメンバーと会い、心から励まし、皆の心に、崩れぬ信心の礎を築こうと決意していた。
車が釧路市街に入ったところで、伸一の車に向かって、盛んに手を振る数人の人たちの姿を見つけた。学会員であろう。伸一は、車を止めるように頼み、窓を開けた。
「ご苦労様! 待っていてくれたんですね」
そして、激励のために用意してきた菓子二箱を贈った。車が走りだした。伸一は、手を振り続けながら、つぶやくように言った。
「時間がほしいね。大事な仏子の皆さんと、もっと、もっと、語り合い、励ましたい」
自分の生涯は、広宣流布のため、同志のために使いきる──それが彼の信念であった。