求道51  2014年8月13日

釧路で男子部の会合が開かれる前日、菅山勝司は、牛の餌になる牧草を刈り取りながら、迷い続けていた。
釧路までは列車で三時間ほどである。この時、彼は、一円の金もなかった。
来いと言ったって、どうやって行けばいいんだ……
空を見上げては、ため息をついた。
作業着のポケットに入れた、会合開催の葉書を、何度も取り出しては読み返した。
そのたびに、〝行くべきではないか……〟という思いが、強くなっていった。
夕方、家に戻ると、ゴロリと横になった。釧路の先輩たちの顔が、次々と浮かんだ。
〝待っているよ!〟〝信じているよ!〟〝立ち上がるんだ!〟――そう言っているように思えた。彼は、起き上がった。
〝そうだ! 自転車で行けばいいんだ! 環境に負けていていいわけがない。皆と会い、山本先生のこともお聴きしたい〟
そんな気持ちが、心のなかで頭をもたげた。
〝今から出れば、間に合うだろう……〟
自転車にまたがると、迷いを振り切るように、思いっきりペダルを踏んだ。
舗装されていない道が続く。木の根っこにタイヤを取られないよう、ハンドルを強く握り締める。
辺りには、街灯も人家の明かりもない。月も、星も、分厚い雲に覆われていた。
自転車のライトの明かりだけを頼りに、必死にペダルを漕ぎ続けた。走るにつれて、息が苦しくなっていった。
しかし、彼は、〝俺に期待を寄せ、待ってくれている先輩がいるんだ。負けるものか!〟と自分に言い聞かせた。
足に力がこもる。額から汗が噴き出す。
自分を信じてくれている人がいれば、勇気が湧き、力があふれる。その〝信〟をもって人と人とを結び、互いに育み合っていく人間共和の世界が創価学会である。
四、五時間、走り続けた。
ピシャッと、冷たいものが顔に当たった。彼は、漆黒の空を見上げた。雨であった。