求道52  2014年8月14日

雨脚は、次第に激しさを増していく。しばらく行くと、道の傍らに何かが、うずたかく積まれているのがわかった。
干し草の山だ。菅山勝司は、自転車を止めて、潜り込んで雨をしのいだ。ほどなく雨はあがった。
また、自転車を漕ぎ始めた。喉が渇くと、道端に生えていた山ブドウを食べた。
やがて夜が白々と明け始めた。朝霧のなかに、釧路の街が見えた。
「もう少しだ。みんなと会える!」彼は安堵した。
すると、途端に全身から力が抜け、どっと疲労に襲われた。
自転車を止め、道端の草むらに横になり、背筋を伸ばした。そのまま眠り込んでしまった。
太陽のまぶしさで目を覚ました。二、三時間、眠っていたようだ。疲れは取れていた。
再び、勢いよく自転車のペダルを踏んだ。市街に入ったのは、午前八時ごろであった。
一晩がかりの、百キロを大幅に上回る走行であった。
菅山の顔は、汗と埃にまみれていたが、心は軽やかであった。
自らの弱い心を制覇した?求道の王者?の入城であった。
男子部の会合では、全参加者が、この「別海の勇者」を、大拍手と大歓声で讃えた。
彼らは、菅山の姿に、男子部魂を知った。
北海の原野に赫々と昇る、太陽のごとき闘魂を見た。感動が青年たちの胸を貫いた。
この会合で菅山は、当時、男子部の最前線組織のリーダーであった「分隊長」に任命されたのである。
その夜、彼は、別海に向かって、再び自転車を走らせた。
体は軽く、足には力がこもった。頬は、感動と決意で紅潮していた。
別海の天地で、一人の青年が、久遠の使命を自覚し、立ち上がったのだ。地域で、家庭で、職場で、最初の一人
が立ち、そして、万朶と咲き薫る花のごとく、陣列を広げていく。それが、広宣流布の不変の原理だ。
酪農の仕事には、時間的な制約が多い。
しかし、菅山は「断じて環境に負けまい」と、真剣に題目を唱え、仕事を手際良くこなし、学会活動の時間をつくった。