小説「新・人間革命」 広宣譜63 2015年 2月4日

山本伸一は、岡山文化会館で高等部歌の作詞に取りかかった。
「高等部員は、全員が創価の大切な後継者である! 私の最高の宝ともいうべき愛弟子である! 二十一世紀の広宣流布のバトンを託す正義の走者である!」
伸一の高等部員への万感の思いは、瞬く間に歌詞となってあふれ出た。
そして、その言葉を、練りに練り上げていった。
  
 一、我れ今あとを 継がんとて
   心凜々しく 時待たん
   この身の彼方は 新世紀
   躍る舞台と 今強く
   学べ尽くさん 正義の道をば(注)
  
一番ができた。彼は、後継の若き勇者の、前途に思いを馳せた。の道には、山もあれば、谷もあろう。雨も、風も、嵐も、猛暑の夏も、吹雪の冬もあろう──それが、広宣流布誓願に生き抜く使命の人の人生なのだ。
伸一の脳裏に、太宰治の、あの名著『走れメロス』が浮かんだ。
──暴虐な王に激怒した青年・メロスは、王城に乗り込むが、捕縛されてしまう。
王の心は、人間への不信に覆われていた。王は、彼を磔にすると言う。
メロスは、たった一人の身内である妹の挙式を済ませて、帰って来るまでの猶予がほしいと、王に頼む。
彼は、王に、無二の友人・セリヌンティウスを身代わりとして預け、三日目の日没までには戻ることを約束する。
戻らなければ、代わりに親友の命が奪われる。しかし、自分は、自由の身となるのだ。
メロスは、その夜、妹の住む故郷の村へ、一睡もせずに走った。
急いで結婚式を挙げさせると、今度は、王城をめざして走った。
濁流となった川を泳ぎ切り、襲ってきた山賊を打ち破るが、疲労困憊し、地に体を投げ出す。
正義、信実、愛を証明しようと、死ぬために走ることが、くだらなく感じられる。
正義の道は、自身の心との戦いの道である。