小説「新・人間革命」 革心43 2015年 6月19日

 
共産主義に自らの進路を見いだした周恩来は、それを鄧穎超に手紙で知らせた。
彼女も、中国の改革を可能にする道を模索し続けていた。
そして、「あなたの考え、思想に完全に賛同します。
私はあなたたちと同じ道をともに進みたいと思います」(注1)と、伝えてきたのである。
一九二三年(大正十二年)の春、周恩来は葉書で、婉曲的に彼女にプロポーズした。
「自由な春に向かってとび出そう! すべての束縛を打ち破って! 勇敢にとぼう、とび出そう!」(注2)
彼は、かつて独身主義であると表明していた。中国の改革を、どこまでも最優先するためである。
鄧穎超は返信で、その考えを変えたのか、と尋ねる。
周恩来は、率直に、独身主義を改めたことを伝えてきた。恋愛と革命は対立しないことが、わかったからであるという。
そして、自分が求めているのは、「一生ともに歩むことのできる、すべてを革命のため捧げることのできる強い意志を持った女性です」「君とならすべての困難に打ち勝ち、ともに革命の道を邁進することができると思うのです」(注3)と綴っている。
彼の心情に、鄧穎超は胸を打たれる。心は結ばれた。改革の同志は、生涯の伴侶となっていくのである。
鄧穎超は、「本当の恋愛」について、自身の考えを、『女星』に記している。
「純潔な友愛、美的感情が高まり、深化し、個性の接近、相互理解、思想の融合、人生観の一致が基礎となっていなければならないと思います。
そしてお互いが共通した学習と事業を持つことによって常に愛情が維持され、深化されなければなりません」(注4)
二人には、中国の改革、人民の繁栄と幸福という崇高な共通の目的があった。確たる信念の大地に根差した愛であった。
一時的な感情に流されていく浮草のごとき愛では、風雪の歳月に耐えて、人生の美しき勝利の花を咲かせることはできない。
 
■引用
 注1・2・3・4 西園寺一晃著『鄧穎超』潮出版社
■主な参考文献
 西園寺一晃著『鄧穎超』潮出版社
 『人民の母──鄧穎超』高橋強・水上弘子・周恩来 ?穎超研究会編著、白帝社
 ハン・スーイン著『長兄──周恩来の生涯』川口洋・美樹子訳、新潮社