小説「新・人間革命」 革心63 2015年 7月14日

李先念副主席との会見が行われた十九日の午後六時半、中国側の関係者を招待して、山本伸一主催の答礼宴が開かれた。
会場は、故宮博物院の北西に位置する北海公園の瓊華島にあるレストラン「ホウ膳飯荘」であった。
北海公園は、現存する中国最古の宮廷庭園とされ、十世紀に建造されている。
約七十ヘクタールといわれる公園の半分以上が人造の湖からなっており、蓮池もある。
千年にわたって歴代王朝の御苑となってきたが、清朝滅亡後、一般に公開されるようになった。
しかし、文化大革命の時には閉鎖され、この年の春から、再び開放されたという。
一行がホウ膳飯荘に到着した時には、夕日が空と湖面をオレンジ色に染め上げていた。伸一は、その美しさに目を見張った。
彼には、『日中の未来よ、かく輝け! 美しき友情で染め上げよ』と、天が語りかけているように思えた。
伸一と峯子は、レストランの入り口で、一人ひとりを出迎え、滞在中、お世話になった
感謝を込めて、固い握手を交わした。
答礼宴には、中日友好協会の廖承志会長や夫人の経普椿理事、張香山・趙樸初副会長、林麗うん理事、孫平化秘書長、北京大学の季羨林副学長、通訳や車両の運転担当者など、多くの人たちが参加してくれた。
また、周恩来総理の夫人であり、全国人民代表大会常務委員会副委員長の鄧穎超が招待に応じ、歓迎宴に続いて、再び出席してくれたのだ。
国家的な指導者との会見は、滞在中に一度という慣例を破っての出席であった。
席に着く時、伸一は、中央の席を鄧穎超に勧めた。すると、彼女は固辞した。
「それは、いけません。今日は、あなたがホスト役ではありませんか。私は、あなたに心からの祝福を申し上げるために、出席させていただいたのですから」
その謙虚さ、気遣いに、彼は恐縮した。
謙虚さは、高潔な人格の証である。それは、人への敬い、広い心、揺るがざる信念の芯があってこそ、成り立つものであるからだ。