小説「新・人間革命」 力走18 2016年4月14日

山本伸一が妻の峯子と共に高丘秀一郎の家を訪ねたのは、午後四時過ぎであった。
並木通り沿いにある瓦屋根の真新しい二階屋で、道を隔てて高校のグラウンドが広がっていた。
高丘家には、既に伸一の訪問が伝えられており、主の秀一郎と妻の直子、高校一年になる長男の龍太が一行を迎えてくれた。
「とうとう名張へ来ましたよ」
そして伸一は、長男に視線を向けた。
「お父さんの目が治ってよかったね」
その声がかすれた。喉に痛みを感じた。
「申し訳ありませんが、うがいをさせていただけませんか」
台所に案内された伸一が、うがいをしていると、勝手口から、こちらをのぞいている制服姿の女子高校生が見えた。
「どうしたの?」
「表を通りましたら、高丘さんのお宅に母の車があったので、母がいるかと思って、見ていたんです」
彼女の母親は、高丘直子から、伸一が高丘家を訪問すると聞いて、駆けつけてきたのである。
「おそらく、お母さんは、部屋の方にいると思いますよ。あなたもいらっしゃい」
仏間に行くと、近隣の学会員など、七、八人ほどが集っていた。
伸一は、皆で題目を三唱したあと、「今日は座談会を開きましょう。
どなたか、体験を語ってください」と話しかけた。
口を切ったのは、秀一郎であった。
丸顔に柔和な笑みを浮かべ、喜びを?み締めるように語り始めた。
「先生。おかげさまで、見事に視力は回復し、十月には、職場復帰を果たせました。
体は、以前にも増して健康になり、信心への強い確信がもてるようになりました。
御本尊の力を生命で感じております。今、仏法対話することが、嬉しくて仕方ないんです」
功徳を実感するならば、おのずから歓喜が湧き、その体験を語りたくなる。
歓喜こそ、広宣流布の原動力である。