【第6回】 5月3日の誓願の旗 2016-5-9

尊き共戦の同志に勝利あれ
対話の薫風をわが街にわが地域に!
 4月28日の「立宗宣言の日」、さらに5月3日の「創価学会の日」「創価学会母の日」を迎えるごとに、私が心新たに拝読(はいどく)する御書がある。
 信心の志(こころざし)深(ふか)く「妙密上人(みょうみつしょうにん)」と尊称(そんしょう)された門下の夫妻への御消息(ごしょうそく)である。
 日蓮大聖人は、本抄で「日本国の中に但一人・南無妙法蓮華経と唱えたり、これは須弥山(しゅみせん)の始(はじめ)の一塵(いちじん) 大海の始の一露(いちろ)なり」(御書1241ページ)と宣言された。そして、広宣流布の流れは必然であると仰せである。
 ――これまで謗(ぼう)じてきた人びとも、今は題目を唱えているであろう。やがて、法華経の神力品(じんりきほん)で説かれているように、万民が一同に南無妙法蓮華経と唱えることもあるに違いない――と。
 大聖人は、それを「木はしづかならんと思へども風やまず・春を留(とどめ)んと思へども夏となる」(同ページ)と譬(たと)えられた。
 1970年(昭和45年)の5月3日、難に直面する渦中の本部総会で、私は1時間半の講演を、この御書で結んだ。
 誰人たりとも、我らの広布前進の風を止めることなど絶対にできない。何があろうとも、学会は師・戸田城聖先生が広宣流布の大闘争に出陣(しゅつじん)された「5月3日」を起点として、攻勢(こうせい)に転じ、断固と時を創っていくのだ。
 これが創価の拡大と勝利のリズムである。その勢いを生み出すのは、勇敢(ゆうかん)な率先(そっせん)の行動だ。
 今年も、誉(ほま)れの友は労苦を厭(いと)わず、5月3日を「行躰即信心(ぎょうたいそくしんじん)」の息吹の中で飾ってくれた。私は心より感謝したい。
「勇気」の大九州
 甚大(じんだい)な地震被害に遭(あ)われた熊本と大分で、わが同志は毅然(きぜん)と変毒為薬(へんどくいやく)に立ち上がっておられる。
 いまだ余震が続き、復旧・復興へのご苦労はいかばかりか。自らも被災されながら、友と地域に尽(つ)くす、余りにも尊き献身(けんしん)に、私は涙する。青年・壮年部の「かたし隊」の奮闘(ふんとう)も有り難い限りだ。
 「勇気は刻下(こっか)の問題に対してよくこれに応ずる力を有する処(ところ)にある」
 これは、熊本出身の英文学者・戸川秋骨氏(とがわしゅうこつし)が訳したアメリカの哲人エマソンの言葉である。
 今いる、その場所で、「自分の為すべき事を即座に成す」力こそが勇気だというのである。
 まさしく、愛する九州家族の勇戦(ゆうせん)の姿そのものではないか。
 九州の友は、東洋広布・世界広布の先駆の誇りも高く、アジアをはじめ海外のメンバーと深く交流を結んできた。
 忘れ得ぬ九州の父母の歓待(かんたい)を受けた世界の友人たちも、我がこととして強盛に題目を送ってくれている。
 私自身、アジアへの往来を九州を拠点(きょてん)として、共に歴史を刻んできた。
 1980年(昭和55年)4月には、第5次訪中を終えて長崎空港へ帰国した。青葉光る長崎に思い出は尽きない。
 5月3日を前に、福岡での県本部長会で、私は不退(ふたい)の決意を訴えた。
 「広宣流布の胸中の旗を断じて降ろすまい!」
 「折伏の修行の法旗を決して降ろすまい!」
 「一生涯の成仏の、信心の炎の光を絶対に消すまい!」と。
 この不撓不屈の闘魂(とうこん)を発揮し、勝利また勝利の歴史を綴(つづ)ってくれているのが、福岡そして大九州の不二の同志なのだ。
「終りの勝」こそ
 九州・福岡藩の祖となった黒田官兵衛(くろだかんべえ)すなわち黒田孝高(くろだよしたか)(如水)は軍略(ぐんりゃく)に優(すぐ)れ、かの信長(のぶなが)・秀吉(ひでよし)・家康(いえやす)という3人の天下人からも大変、重要視された傑物(けつぶつ)であった。
 彼の生まれは播磨国(はりまのくに)の姫路(ひめじ)である。今の兵庫(ひょうご)を地盤としながら、勲功(くんこう)を挙(あ)げ、やがて九州に本拠を移したのだ。
 黒田官兵衛は、後継者の子息・長政に、「終りの勝(かち)を計(はか)れ」と教えた。戦いの大きな流れを見失い、目先の勝敗に翻弄(ほんろう)されてはならぬ。「良将(りょうしょう)」は軽率(けいそつ)な動きを排(はい)し、あくまでも全体観に立って戦うゆえに勝利を全うできるというのだ。
 長い人生の戦いにあっても、途中(とちゅう)には幾多(いくた)の苦難(くなん)がある。壁(かべ)にぶつかる時もあろう。思いもよらぬ難関(なんせき)が立ちはだかる。
 だが、我らには「法華経の兵法」がある。ゆえに迷いなく、定めた決勝点を目指して、辛抱(しんぼう)強く力走するのだ。そして「最後は、信心しきったものが必ず勝つ」ことを、執念(しゅうねん)で証明するのだ。
 この負けじ魂(たましい)を満天下に示したのが、兵庫・西宮の阪神甲子園球場で開催した、あの「雨の関西文化祭」であった(1966年9月)。
 台風接近の影響による激しい雨がグラウンドを打ち付ける中、わが関西の青年たちは、試練の逆境(ぎゃっきょう)をはね返し、偉大な人間讃歌の舞台に変えた。
 その常勝不敗(じょうしょうふはい)の魂(たましい)は、半世紀を経た今も脈々と流れ通っている。
 先日も、兵庫で広布の法城(ほうじょう)を厳護(げんご)してくれている壮年部の王城会の友の便りに綴(つづ)られてあった。
 ――21年前、阪神・淡路大震災を共に歯を食いしばって乗り越えてきた創価班や牙城会等の仲間たちが今、黄金柱の世代となりました。世界一の婦人部、従藍而青(じゅうらんにしょう)の青年部と心を一つに、「負けたらあかん!」と奮闘(ふんとう)しています、と。
民衆の力で劇を
 「広布の一番星」と輝く愛知の講堂では、先月、全国男子部幹部会が雄々しく開催された。
 堅塁(けんるい)・中部の草創の父母が団結と不屈の魂で護(まも)り抜いてきた「勝利の旗」を、後継の若人が受け継いでくれている。本当に嬉しく、頼もしい。
 この講堂は1992年(平成4年)、「5・3」を祝す本部幹部会が行われた場所だ。あの日、私は、中部の友と語り合った。
 「民衆が力を合わせた時、“奇跡”ともいうべきドラマが生まれる」と。
 誓願の「この道」を、威風も堂々と走り抜いた師弟共戦の友は、「至誠天(しせいてん)に通ず」の如く、あらゆる諸天(しょてん)を動かし、悪鬼魔民(あっきまみん)をも味方に付ける祈りで、見事な勝利劇を飾ってきたのである。
 大聖人が、ある女性門下に送られた御書には、「よき師と・よき檀那(だんな)と・よき法と此の三寄(みつよ)り合いて祈(いのり)を成就(じょうじゅ)し国土の大難をも払(はら)ふべき者なり」(550ページ)と示されている。ここに、立正安国の勝利の要諦(ようてい)があるのだ。
後継と友情の糸
 妙法の令法久住(りょうほうくじゅう)は、未来へ連綿と信心の志が受け継がれる「後継」という縦糸と、わが街、わが郷土に大きく広げゆく「友情」という横糸によって、織(お)り成される。
 この5月3日も、世界192カ国・地域で、言語も文化も違う多様な人びとが、「広宣流布」すなわち人類の幸福と平和という一点で心を同じくして、希望の大行進を開始した。
 「在在諸仏土(ざいざいしょぶつど) 常与師俱生(じょうよしぐしょう)」――法華経には、師と弟子が、常に同じ仏国土に生まれ、共に仏法を行ずると説かれる。
 大きな視野に立てば、この地球自体が一つの仏国土といってよい。今この時に生まれ合わせた世界の同志は皆、同じ仏国土で戦う、久遠からの共戦の地涌の菩薩なのだ。

 それは1979年(昭和54年)、私が第三代会長を辞任した直後の5月3日のことである。
 八王子から横浜に入った私は、海に臨(のぞ)む神奈川文化会館で、「共戦」と認めた。真実の同志と共に、世界広布へ新たに船出する誓いを込めた。
 立場や肩書など関係ない。わが学会には、麗(うるわ)しき異体同心の団結がある。正義の志がある。ゆえに、絶対に負けない。
 翌年(1980年)には、四国から3度にわたり、延べ3,000人もの同志が、波濤(はどう)を越えて、神奈川に来てくれた。
 以来36星霜――。本年3月には、かつて集ったメンバーの子や孫にあたる四国男子部の代表が神奈川を訪れ、地元男子部との交流の会合が行われた。初対面の友ばかりだったが、会場は「共戦」の熱気に包まれた。
 創価の勝利のため、どこまでも共に――この共戦の絆は、次の世代へ厳然(げんぜん)と継承(けいしょう)されている。
人間共和の都へ
 大歴史家トインビー博士と語り合ったのは、新緑の5月であった(1972年と73年)。
 世界を旅した博士は、述懐(じゅっかい)されていた。
 「だれかと直接 顔を合わせて会い、どこかある風景を自分の眼で見ることは、数巻の文字や、写真や、地図を見るよりも価値がある」と。
 そして、「新たな友人」をはじめ、こうした旅の中で得たものこそ、生涯にわたる「貴重な財産」になると強調された。直接、会い、語り合うことは、自他共(じたとも)の人生を何倍も豊かにするのだ。
 今、全国各地の共戦の同志たちが、あの友、この友のもとへと足を運び、対話の薫風(はるかぜ)を起こしてくれている。
 「妙密上人御消息(みょうみつしょうにんごしょうそく)」には「一を重(かさ)ぬれば二となり・二を重ぬれば三・乃至(ないし)十・百・千・万・億・阿僧祇(あそぎ)の母は唯(ただ)・一なるべし」(御書1237ページ)と記されている。
 一人との誠実の対話から無限の希望が広がる。
 いよいよ、創価の威光勢力(いこうせいりょく)を増しながら、民衆の幸福の凱歌(がいか)が轟(とどろ)く「人間共和の都」を、わが地域に、わが街に、強く、朗らかに築きゆこう! 広布誓願の旗高く!
 (随時、掲載いたします)
 エマソンの言葉は『エマアソン全集4 社交及孤独』戸川秋骨訳(国民文庫刊行会)=現代表記に改め、傍点も外した。黒田孝高は岡谷繁実著『名将言行録4』(岩波書店)、トインビーは『トインビー著作集7』所収「東から西へ」長谷川松治訳(社会思想社)。