小説「新・人間革命」 清新8 2016年年6月23日

安房由光の販売店の配達員からも、宗門僧の圧力に屈して、学会を去る人が出始めた。
配達員がいなくなった地域の配達は、安房自身が行わなければならない。
彼は負けるものか!と、自分を奮い立たせた。
一月十一日、安房は、県北の二戸から県南の水沢まで、車で三時間ほどかけて、岩手県代表幹部会に駆けつけたのである。
途中、吹雪に見舞われた。これは、広布の道を象徴しているのだと思うと、心は燃えた。
午後六時、代表幹部会の会場に姿を見せた山本伸一は言った。
「今日は、私も愛する岩手の一員です。したがって会長は別の人にやってもらいます。
あなたに『一日会長』をお願いします」
教育部の壮年を指名し、自分の胸章を彼につけた。
勤行のあと、県幹部から、この一月十一日を「水沢の日」とすることが発表された。場内は喜びの大拍手に沸き返った。
幹部の抱負に移ると、伸一は言った。
「私たちは、役職や肩書に関係なく、みんな平等です。同志であり、友だちです。
だから、登壇者も堅苦しい話はやめて、原稿は見ないで話すようにしましょう。皆、遠くから来て、疲れているんだから、楽しくね」
戸惑ったのは、登壇者たちである。途中でしどろもどろになる人もいた。すると、会場から声援が起こり、笑いが弾けた。
さらに、婦人部合唱団の合唱となった。
「歌は何がいいですか。リクエストした曲を歌ってもらいましょう」
伸一が提案すると、「荒城の月」「春が来た」など、次々に声があがった。合唱団は、慌てることなく、はつらつと歌った。 
「では、もう一曲!」
「『青い山脈』をお願いします!」
練習したことのない歌だ。しかし、これも見事に歌い上げた。大きな拍手が轟いた。
合唱団のメンバーは、何事も、心を定め、体当たりでぶつかっていく時、高い障壁も乗り越えられることを確信したのであった。