小説「新・人間革命」源流 4 2016年9月5日

林一家は子どもが六人おり、父親は運転手をし、母親は裁縫の仕事をしていた。
住居は、三十平方メートルにも満たない公営のアパートである。
山本伸一は、林家の子どもたちとブランコで遊んだあと、両親に視線を向けた。
「よく頑張っていますね。子どもさんは、一生懸命に働いてくれている親の姿を、じっと見ています。みんな必ず立派に育ちますよ。
たとえ、貧しくとも、地味であろうとも、脚光を浴びることはなくとも、人びとの幸せを願いながら学会活動に励み、必死に子どもを育てている人は、最も偉大であり、庶民の大英雄です」
それから彼は、子どもたちに言った。
「みんなのお父さん、お母さんは、すばらしい方です。最高の誇りにしていってください。
そして将来、苦しんでいる人たちを守るために力をつけるんだよ。いいね。約束しようよ!」
彼は、林一家と固い握手を交わして、「では、またお会いしましょう! ありがとう!」と言って、別れを告げた。
林親子は、この時の伸一の話を忘れなかった。
父母は、伸一が子どもたちに言った「大学に行こうね」との言葉を、必ず果たそうと強く心に誓った。
生活は苦しく、子どもを大学に行かせるゆとりなどなかったが、懸命に働いた。
母親は、深夜一時、二時まで裁縫の仕事をし、朝五時には起きて食事の支度をし、子どもを育てていった。
やがて、伸一に励まされた三人の子どもたちのうち姉二人は、大学院にまで進んだ。
また、弟の宣廣は、名門・香港大学を卒業し、歯科医となり、診療所を開設する。
学会の組織にあっても、香港SGIの医学部長(ドクター部長)などとして活躍していくことになる。
人は誓いを立て、それに挑戦することによって、自らを高め、成長していくことができる。
誓うことができるのは人間だけであり、誓いに生きてこそ、真の人間といえよう。