小説「新・人間革命」源流 6 2016年9月7日

香港滞在二日目となる二月四日の午後一時半、山本伸一は、九竜のビクトリア港近くにある九竜会館を初訪問し、香港広布十八周年を祝う記念勤行会に出席した。
九竜会館は商店街の中にあり、十四階建てのビルの四階(日本の数え方では十五階建ての五階)にあった。
勤行会には、各部の代表二百五十人ほどが集っていた。
勤行のあと、女子部の人材育成グループである「明朗グループ」がグループ歌を、男子部の有志が「広布に走れ」を広東語で披露した。
翌五日にインドへ出発する伸一たちの壮途を祝しての合唱であった。 
席上、伸一は、宿命転換について述べた。
「人間は、誰しも幸せになりたいと願っている。
しかし、人生にあっては、予期せぬ病気や交通事故、自然災害など、自分の意志や努力だけではどうしようもない事態に遭遇することがある。
そこに、宿命という問題があるんです。
その不条理とも思える現実に直面した時、どう克服していけばよいのか──題目です。
御本尊への唱題によって、自身の胸中に具わっている、南無妙法蓮華経という仏の大生命を涌現していく以外にない。
強い心をもち、生命力にあふれた自分であれば、どんな試練にさらされても、負けることはない。
何があろうが、悠々と宿命の大波を乗り越えていくことができます。
日蓮大聖人は佐渡に流された時、法華経のゆえに大難に遭うことで、過去世の罪障を消滅し、宿命を転換することができると述べられている。
そして、『流人なれども喜悦はかりなし』(御書一三六〇ページ)と感涙された。
私たちも、この大聖人の御境涯に連なっていくならば、『宿命に泣く人生』から『使命に生きる歓喜の人生』へと転じていくことができる。
大聖人の仏法は、宿命打開、宿命転換の仏法であることを確信してください」
戸田城聖の願いは、アジアの民の宿命転換にあった。伸一は、香港の同志に、その先駆けとなってほしかったのである。