小説「新・人間革命」源流 7 2016年9月8日

九竜会館での記念勤行会が行われた四日の夜、山本伸一は香港本部長会に出席した。
彼は、参加者の近況や意見を聞きながら、一人ひとりに励ましの言葉を送った。
広宣流布といっても、遠くにあるものではなく、身近にあるものなんです。
まず自分自身を信・行・学で磨くこと。家庭を盤石にすること。そして、地域に貢献できる力をつけていくこと。
地道に努力を重ね、一つ一つ勝ち取っていくなかに信心があるんです」
「財物を得て感じる幸せには限りがあります。
しかし、信心によって勝ち得る幸せは、満足の深さが違う。それを実感してほしいんです。
信心を一生涯やり抜いた人は、本当の人生の勝利者になることができます」
また、幹部の在り方について触れ、「メンバーに対しては、わが兄弟、姉妹のように、わが家族のように、親切にしてあげてほしい。
人間は機械ではありません。人と人との信頼の絆があってこそ、信心の理解も進むんです」と指導した。
インドへ向かう五日の午後、伸一は、出発を前に、九竜の尖沙咀にある故・周志剛理事長の家を訪ねた。
途中、大通りを歩いていると、地下鉄工事の現場近くで、同行していた香港の幹部が、一人の青年を見つけ、伸一に紹介した。
工事の作業員として働いており、ちょうど昼食を取るために、地上に上がってきたのだという。
彼は、痩せ顔色も優れなかった。持病の喘息で苦しんで
いるという。
「大変だね。私も青年時代に胸を病んだので、呼吸器疾患の苦しさはよくわかります。
ともかく体を大事にして早く健康になることだよ。医者の言うことをよく聞いて、工夫して休養を取り、しっかりと栄養を取ること。
そして、根本は生命力を強くするしかありません。
それには題目です。元気になってみせると決めて、真剣に唱題していくんです。
必ず健康になるんだよ。約束しよう!」
全力で励まし、握手を交わした。一瞬の対話が人生の転機になることもあるからだ。