小説「新・人間革命」源流 9 2016年9月10日

インド・デリーは、空いっぱいに星々が瞬き、上弦をやや過ぎた銀の月が、微笑みかけるように、地上に光を投げかけていた。
香港の啓徳空港を二月五日の夕刻に発った山本伸一の一行が、パラム空港(後のインディラ・ガンジー国際空港)に到着したのは、現地時間で六日の午前零時十五分のことであった。
タラップを下りると、そこには、招聘元であるインド文化関係評議会(ICCR)のヘレン・マタイ事務局次長が、ブルーのサリーに身を包み、花束を手に迎えてくれた。
向かった空港のビルには、深夜にもかかわらず、デリー市のR・K・グプタ市長やインディアン・エクスプレス紙のR・N・ゴエンカ会長をはじめ、インドSGIメンバーの代表らが待っていた。
伸一は、歓迎の言葉に応えて、恐縮しながら、夜遅く、多数の人びとが空港まで足を運んでくれたことに感謝を述べた。
そして、十五年ぶりのこのインド訪問が、日印の平和と文化の交流のための懸け橋となるよう力を尽くしていきたいと、抱負を語った。
これで終了かと思った時、地元紙のインド人記者から質問が飛びだした。
「今回、インドを訪問された第一印象についてお聞かせください」
伸一は、とっさに答えた。
「月もきれいでした。星も美しく輝いていました。機上から見た点滅する街の光も、まるで絵のようでした。
そこに、インドの神秘と未来と夢とを感じました。この感想は、空から見
たものです。
明日からは地上のインドを見させていただきます。それが大事だと思っています。
人間の中へ入っていきます! 胸襟を開いて語り合っていきます!」
決意のこもった伸一の回答に、記者は「おおっ!」と声をあげた。爆笑が広がった。
その言葉通り、伸一は、精力的に動いた。
対話によって相互理解は深まり、友情が芽生える。語り合うことは平和の架橋作業だ。