小説「新・人間革命」源流 10 2016年9月13日

山本伸一たち訪印団一行は、ニューデリーのアショーカホテルに宿泊した。
六日朝、辺りは靄に包まれ、空気はひんやりとしていた。
緑の木々から流れる鳥のさえずりが、のどかな思いに浸らせた。
しかし、市街に出ると、人でごった返し、物売りの声が響き、喧騒と熱気が満ちている。
空港で出迎えてくれたデリー市のグプタ市長が、市の人口は十五年間で二百六十万人から四百五十万人に増加したと語っていたように、民衆の活力があふれていた。
今回の訪問では、日印の平和友好の更なる流れを開くために、指導者との語らいや、大学訪問などが予定されていた。
午前中、伸一は、宿舎のホテルで、インドでの諸行事の運営や通訳などを担当してくれる現地の日本人メンバー数人と、打ち合わせを兼ねて懇談した。
皆、日本で何度か会った青年たちである。
そのうちの一人に、ジャワハルラル・ネルー大学の博士課程に学ぶ大河内敬一がいた。
東京・新宿区の出身で、二十六歳である。
伸一は、目を細めながら彼に声をかけた。
「元気そうでよかったよ。いつまでインドにいる予定なの?」
大河内は、きっぱりと答えた。
「インドに永住いたします!」
「そうか! ここを、生涯にわたる使命の天地と定めたんだね。よろしく頼むよ。これからは、舞台は世界だ」
「先生。私は、高等部の人材育成グループとしてつくっていただいた『鳳雛会』の東京四期です。
その高等部の時に、インドの広宣流布に生き抜くことが私の使命であると決めました。
この決意を果たしていこうと思っております」
伸一は、彼を見詰め、微笑みを浮かべた。
「立派になった。鳳雛は鳳に育ったね。嬉しいよ。君たちが自在に活躍できるように、インドにもさまざまな道を開いておきます。
弟子のために戦うのが師であり、弟子は師のために戦い抜く──それが師弟不二です」