小説「新・人間革命」源流 32 2016年10月8日

バジパイ外相は、ひときわ確信と情熱のこもった大きな声で言った。
「インドと中国は、平和五原則を守れば、問題はなんでも解決できるはずです」
平和五原則は一九五四年(昭和二十九年)に、中国の周恩来総理とインドのネルー首相との共同声明に示された、領土・主権の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存から成る五つの原則である。
外相は、この平和五原則に立ち戻り、武力を用いることなく、問題を解決していきたいとの意向を明らかにし、「すべての国と友好を結ぶのがインドの考えです」と強調した。
山本伸一は、日本への要望を尋ねた。
「日本は日の昇る東の国です。東天に輝いた太陽の光は、あらゆるものを平等に照らします。遠き地よりも近き地に、より暖かな光を注ぐものです」
文学的で、含蓄に富んだ言葉であった。
伸一は、日本は関心の眼を、遠いヨーロッパやアメリカだけでなく、近いアジアに注ぐべきである、との要請と受け止めた。
 らに、外相は、世界屈指の優れた工業生産力をもち、大きな経済発展を遂げた日本は、先進国と発展途上国との差をなくすための力になってほしいと訴えた。
また、アショーカ大王を心から尊敬しているという外相は、仏教の精神を根底にしたアショーカの治世に言及していった。
そして、当時は、文化が栄え、貿易も盛んで、死刑も行われず、人びとは幸せな生活を営んでいたことを紹介。
獅子、法輪を配したインドの国章は、アショーカの建てた獅子柱頭に由来しているとして、こう語った。
「インドでは宗教をダルマ(法)ととらえています。これは生活法という意味であり、人生の土台をなすものです。
インド社会では宗教が深く生活に根差しています」
――「宗教はすべてを成立せしめる根本的立場である」(注)とは、哲学者・西田幾多郎の卓見である。宗教という基が確立されてこそ、人生の充実もある。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 「歴史的形成作用としての芸術的創作」(『西田幾多郎全集第九巻』所収)岩波書店