小説「新・人間革命」源流 34 2016年10月12日

バジパイ外相との対談を終えた山本伸一の一行は、ニューデリー郊外の、ヤムナー川近くにあるラージ・ガートへ向かった。
ここは、一九四八年(昭和二十三年)に凶弾に倒れたガンジーの遺体を荼毘に付した場所であり、美しい聖地公園になっている。
伸一は、インドを初めて訪れた六一年(同三十六年)以来、二度目の訪問である。
辺りの木々と芝生の緑が陽光に映える、穏やかな午後であった。
ゆるやかな丘の頂に、高さ数十センチ、四方三メートルほどの黒大理石の碑がある。
一行は、偉大なる魂の人(マハトマ)・ガンジーへの敬意を表するとともに、その精神の継承を誓い、献花を行うことにしていた。
ここは聖地であるため、皆、靴にカバーをかけ、花輪を先頭に、厳粛に歩みを運んだ。
ガンジーが貫いた非暴力・不服従運動は、人類史に人道と平和の輝きを放つ独立運動、人権運動となった。
令状なしの逮捕などを可能にするローラット法への抗議。
イギリスの支配から経済的、精神的に独立していくため、インドの伝統工芸であったチャルカ(紡ぎ車)を使っての綿製品生産。
イギリス植民地政府の不当な塩の専売に抗議して行った塩の行進……。
彼の運動の前には、常に暴力による抑圧が待ち受けていた。
しかし、それに対して、暴力で抗することをせずに戦い続けたのだ。
ガンジーは言う。 「非暴力と臆病とは相容れないものである」「真の非暴力は、純粋な勇気を持たずには実践不可能だ」(注1)
彼の非暴力運動は、暴力や武力に対して、精神の力をもってする戦いである。
そして、「勇敢であることは、精神性の第一の条件である」(注2)と述べているように、恐れない心が求められる道といってよい。
大聖人は「日蓮が弟子等は臆病にては叶うべからず」(御書一二八二ページ)と仰せである。
人間勝利の歴史を開く偉大なる歩みは、すべて勇気の覚醒から始まる。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注1 K・クリパラーニー編『≪ガンジー語録≫抵抗するな・屈服するな』古賀
勝郎訳、朝日新聞社
注2 ガンディー著『私にとっての宗教』浦田広朗訳、新評論