小説「新・人間革命」源流 47 2016年10月27日

二月九日の午後八時から、インディアン・エクスプレス社のR・N・ゴエンカ会長が主催する訪印団一行の歓迎宴が、ニューデリーのホテルで行われた。
「インディアン・エクスプレス」は、インド屈指の日刊紙である。
歓迎宴には、訪中を前にしたバジパイ外相、L・K・アドバニー情報・放送相をはじめ、多数の識者らが参加し、真心に包まれた語らいの一夜となった。
ゴエンカ会長は豪放磊落で精悍な新聞人であった。
七十代半ばとは思えないほど、快活で、哄笑が絶えず、エネルギッシュな話し方には不屈の闘志があふれていた。
インドに到着した折も、真夜中にもかかわらず、空港まで出迎えに来てくれた。
彼は、一九〇四年(明治三十七年)四月に、インド東部のビハール州に生まれた。
青年時代に、イギリスからのインド独立を勝ち取ろうと、ガンジーの運動に加わった。
自身の発行する「インディアン・エクスプレス」を武器に、イギリスが行っている数々の偽りを暴き、戦い抜いた。
インドが独立したあとも、政府による新聞への激しい圧迫の時代があった。
しかし彼は、それに屈することなく、言論人としての主義主張を貫いていった。
伸一は、その苦境を突き破ったバネは何かを尋ねた。ゴエンカ会長は胸を張った。
「人びとに対する義務です! 新聞は私個人に属するのではなく、人びとのためにあります。
私は、単に人びとの委託、信任を受けた、いわば代理人です。
ゆえに、人びとに応えるために、私は支配者に屈服、服従することはできませんでした」
言論人の使命は、民衆の声を汲み上げ、その見えざる心に応え、戦うことにある。
精神の自由を?奪しようとする権力は、まず表現・言論の自由を奪おうとする。
それを手放すことは、人間の魂を捨てることだ。
また、人生の処世訓を問うと、こう答えた。
「決して破壊してはいけない。建設的であれ。これが、私の人生の主義です」