小説「新・人間革命」源流 62 2016年11月15日
この精神の水脈がインドの大地を潤す限り、この国は精神の大国であり続けるにちがいないと、伸一は思った。
シン知事の笑顔に送られ、知事公邸を後にした伸一の一行は、ビクトリア記念堂を見学した。
インド皇帝を兼務していたイギリスのビクトリア女王を記念し、二十世紀の初めに造営された、白大理石の美しい建物である。
館内の見学を終えて外に出ると、小学四、五年生くらいの子どもが教師に引率されて見学に来ていた。
ここでも子どもたちが伸一の周りに集まり、語らいの花が咲いた。
そこから一行が車で向かったのは、シン知事が総長を務めるラビンドラ・バラティ大学であった。
図書贈呈のためである。同大学は詩聖タゴールの生家の敷地に建つ、彼の思想、精神を継承する教育の城である。
タゴールは、詩歌をはじめ、小説や戯曲、音楽、絵画などにも類いまれな才能を発揮した芸術家であり、思想家、教育者である。
彼は、圧政にあえぐインドの民の声なき声を汲み上げ、人間性の勝利と平和を詠い続けた。
四十代で愛する妻を、さらに子どもたちを亡くすが、悲哀の涙の乾かぬなかで、イギリスによる故郷ベンガルの分割に対する反対運動に挺身し、苦難の嵐の中を突き進む。
悲哀なき人生はない。それを乗り越えて歓喜をつかむことが、生きるということなのだ──これが詩聖の魂の叫びであろう。
彼の詩は、万人の生命を包み、励ます。