小説「新・人間革命」 雌伏 二十九 2017年4月27日

山本伸一は、来る日も来る日も、神奈川研修道場や新宿文化会館などで、各地や各部の代表らと懇談し、指導・激励を続けた。
一部の週刊誌などは、相変わらず学会批判を続け、捏造、歪曲した報道も盛んであった。
しかし、伸一は、悠然と、太陽が己の軌道を黙々と進むように、個人指導を重ねていった。
励ました同志が、信心に奮い立ち、宿業の障壁に挑み、乗り越え、
人生の凱歌を響かせる姿を見ることに勝る感動はない。
伸一は、青年たちとも好んで懇談した。神奈川文化会館で数人の男子部、学生部の幹部らと語り合った折、彼は尋ねた。
学会は新出発して半年以上が経過したが、青年は元気かね」  男子部の幹部が答えた。
「はい。頑張っています。ただ、先生が会合で指導されることがなくなってしまい、皆、寂しい思いをしています」
伸一は、すかさず言った。
「そう感じたならば、青年が立ち上がるんです。
そうでなければ、傍観者であり、主体者ではない。
自分が一切を担おうと決めて、前進の原動力となっていくのが青年です」
男子部の幹部が、困惑した顔で語った。
「新しい活動などを提案しても、壮年の先輩たちは、なかなか賛成してくれません」
伸一は、笑みを浮かべた。
「青年が新しいものを企画し、先輩である壮年たちが反対す
る──多かれ、少なかれ、どの団体や社会でもあるものだ。
年配者には、何事にせよ、豊富な経験がある。そこから導き出された経験的法則というものがあり、その尺度で物事を判断する。
この経験則という裏づけがあるだけに、年配者の判断には間違いは少ない。
しかし、自分が経験していない物事には否定的になりやすい。
また、時代が大きく変化している場合には、経験則が役に立たなくなる。
それが認識できないと、判断を誤ってしまう。
壮年幹部の側は、その点を心して、青年の意見に、積極的に耳を傾けていくべきです」