小説「新・人間革命」 雌伏 五十五 2017年5月29日

ボーッと、「さんふらわあ7」号の出航を告げる汽笛が夜の海に響いた。
四国の同志は、甲板に出ていた。船は、静かに離岸し始めた。
見送りに埠頭に集った神奈川の同志が、「さようなら!」「また来てください!」と口々に叫びながら手を振っている。
岸辺には、窓明かりが光る神奈川文化会館がそびえ、横浜の街の灯が広がっていた。
次の瞬間、文化会館の明かりが一斉に消えた。上層階の窓に、幾つもの小さな光が揺れている。
船舶電話に連絡が入った。
「今、山本先生と奥様が、最上階で懐中電灯を振って、見送ってくださっています。船から見えますか?」
直ちに船内放送でメンバーに伝えられた。
皆、甲板の上から、最上階の光に向かって盛んに手を振り、声を限りに叫んだ。
「先生! 四国は頑張ります!」
「ご安心ください!」
「地域広布の先駆けとなります!」
皆、目を潤ませていた。
伸一たちは、船が見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも懐中電灯を振り続けた。
遠ざかる船上で叫ぶメンバーの声が、伸一たちに聞こえることはない。
しかし、彼も峯子も、わが同志の心の声を聴いていた。
また、彼らの送る光は、四国のメンバーの胸に、消えることのない、勇気と希望の灯火となって映し出されていったの
である。
日蓮大聖人は、「道のとを(遠)きに心ざしのあらわるるにや」(御書一二二三ページ)と仰せである。
求道の志ある人には、成長がある。歓喜があり、感謝がある。それは、新しき前進の大原動力となろう。
伸一は、この夜も、船が揺れず、無事故で皆が帰れるように唱題した。
さらに、夜更けてから船と連絡を取り、再度、「来られなかった方々に、くれぐれもよろしく」と伝えた。
翌朝も、安否を確認する連絡を入れた。
彼にとっては、弟子たちこそが最高の宝であり、未来を照らし出す太陽であった。