小説「新・人間革命」 雌伏 六十 2017年6月3日
「やぁ、よく来たね! 遠いところ、ご苦労様! ゆっくりしていってください。
お父さん、お母さんは元気かな。
お帰りになったら、くれぐれもよろしくお伝えください。
みんなは福運があるんだよ。
草創の同志が迫害と戦い、それこそ、命がけで学会の基盤をつくってくださった。
その土台の上で、伸び伸びと、楽しく、学会活動に励めるんだもの。
お父さん、お母さんの苦労、努力を、決して忘れてはいけないよ」
伸一は、車イスに乗ったメンバーがいるのを目にすると、すぐに歩み寄り、声をかけた。
「本当によく来たね! 待っていたよ」
彼女は、徳之島から来た女子部員で、脳性麻痺のため、しゃべることにも、歩くことにも困難が伴った。
また、東京へ行くと決めてからは、言語訓練にも、歩行訓練にも力を注いだ。ゆっくりとなら単独歩行もできるまでになった。
伸一は、力を込めて語った。
「もう、大丈夫だ。必ず幸せになるよ」
人は、病だから不幸なのではない。
病があろうが、希望をいだき、挑戦の心を燃やし、自分に敗れなければよいのだ。
彼女は、障がいに負けることなく、広宣流布の使命に生き抜こうとしていた。
それ自体、既に自分に打ち勝っていることなのだ。
信心とは挑戦の力だ。信心ある限り、前途に輝くのは、勝利と幸福の栄冠である。
したがって伸一は、「必ず幸せになる」と断言したのだ。
その女子部員は、伸一を見詰め、目に涙を浮かべて、大きく頷くのであった。
やがて彼女は結婚もし、子宝にも恵まれ、夫妻で確かな幸の道を歩んでいくのである。