小説「新・人間革命」 暁鐘 五 2017年9月5日

十八日の午後、山本伸一は、フランクフルト会館を訪れ、ドイツ広布二十周年の記念勤行会に臨んだ。
会館では記念植樹や記念撮影も行われ、ドイツ広布の道を切り開いてきた同志の、さわやかな喜びの笑みが広がった。
勤行会に引き続いて、伸一を囲んで、信心懇談会が行われた。
彼は、東西に分断されたドイツの現状を憂えながら、語っていった。
「ご存じのように、資本主義も行き詰まっている。社会主義も行き詰まっております。
しかし、私どもは、それぞれの体制をうんぬんしようというのではない。
どんな体制の社会であろうが、そこに厳として存在する一人ひとりの人間に光を当てることから、私たち仏法者の運動は始まります。
際限のない人間の欲望を制御し、一人ひとりが自他共の幸福をめざして、身近な生活のうえに、社会のうえに、いかに偉大な価値を創造していくか
──そこに、社会の行き詰まりを打開していく道があります。
どんな理想を掲げた体制も、人間自身の生命の変革、すなわち人間革命なくしては、その理想は画竜点睛を欠き、絵に描いた餅にすぎない。
日蓮大聖人の仏法は、宇宙根源の法とは何かを教えており、その法への信仰は、人間に内在する無限の創造力の根源である『仏』の生命を引き出していくためであります。
混迷する社会にあって、わが生命に仏界を涌現させ、清新な生命力をみなぎらせ、
明確なる人生道と幸福道と平和道を闊歩していく力となり、道標となるのが信心なんです。
しかも、『天国』といった現実を離れたところに幸福を求めるのではなく、自分が今いる場所で、日々の現実生活のなかで、崩れざる幸福を確立していけると説いているのが、仏法の教えです」
カオス(混沌)の様相を呈している時代だからこそ、仏法という確かな生命の哲学を求めることが、各人の人生にとっても、世界にとっても、大きな希望の光とな
ることを、伸一は訴えたかったのである。