小説「新・人間革命」 暁鐘 十四 2017年9月16日

山本伸一と峯子は、メキシコでの出会い以来、約二カ月半ぶりに、ジフコワ議長と再会したのである。
議長は、白いスーツに白い帽子を被り、あの柔和な微笑をたたえながら言った。
「先ほど、ソフィア大学の名誉博士になられ、本当におめでとうございます。
この学位記の授与は、先生のこれまでの実績が、名誉博士にふさわしいからこそです。
私たちは、先生を『平和の大使』と考えております。
先生は、人間と人間との交流を促進することになる文化交流に、人生をかけていらっしゃいます。
ブルガリア人は文化を重んじる国民ですから、先生の生き方を深く理解することができます」
伸一は、感謝の意を表した。
会談は、ブルガリア民族の歴史、文化的伝統、東洋の文化とブルガリアの関連性等に及んだ。
そのなかで、議長は、ブルガリア人の民族的背景に触れ、ブルガリア人は、トラキア人、スラブ人、原ブルガリア人で構成され、このうち原ブルガリア人は中央アジアから出ており、仏教文化とも深い関係があると語った。
人類は、どこかで深くつながっているというのが、彼女の洞察であった。
また、今後の文化交流についても意見交換し、民音民主音楽協会の略称)を通して合唱団を日本へ招くことや、少年少女の交流などが話し合われ、実りある語らいとなった。
伸一は、文化政策の重責を担い、奔走し続ける議長に、気遣いの言葉をかけた。
「長い人生です。長い戦いです。ブルガリアのため、世界のために、ご無理をなさらずに、どうか、お体を大切にしてください」
彼女は笑顔で頷いたあと、毅然と語った。
「ありがとうございます。でも、重い立場にいる人には、重い責任があります。
その責任を自覚して、全力で働くしかありません。
たとえ、そのために何があろうとも……。
それは、覚悟のうえのことです」
不動の決意が光っていた。覚悟なくして大業を果たすことはできない。