小説「新・人間革命」 暁鐘 四十三 2017年10月21日

九日正午、山本伸一たちは、マルセイユを訪れた。小高い丘の上に四角い鐘楼がそびえていた。
ノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院である。
丘に立つと、地中海のコバルト色の海に浮かぶ、石造りの堅固な城壁に囲まれた小島が見える。
巌窟王』の邦訳名で知られる、アレクサンドル・デュマの小説『モンテ・クリスト伯』の舞台となったシャトー・ディフである。
本来、シャトー・ディフは、要塞として造られたが、脱出が困難なことから、政治犯などを収容する牢獄として使われてきた。
エドモン・ダンテス(後のモンテ・クリスト伯)も、十四年間、ここに幽閉されていた人物として描かれている。
戦時中、二年間の獄中生活を経て出獄した恩師・戸田城聖は、巌窟王のごとく、いかなる苦難も耐え忍んで、獄死された師の牧口先生の敵を討つ! 師の正義を、断固、証明し、広宣流布の道を開く!と、固く心に誓い、戦後の学会再建の歩みを開始した。
ナチスの激しい弾圧に耐え、勝利したフランスのレジスタンス(抵抗)運動にも、まさに、この巌窟王の精神が脈打っているように、伸一には思えた。
巌窟王とは、勇気の人、不屈の人、信念の人であり、忍耐の人である。広宣流布は、そうした人がいてこそ、可能になる。
ゆえに、いかなる困難にも決して退くことなく、目的を成就するまで、粘り強く、執念をもって前進し続けるのだ。
そこに立ちはだかるのは、もう、いいだろう”“これ以上は無理だ。限界だという心の障壁である。それを打ち破り、渾身の力を振り絞って、執念の歩みを踏み出してこそ、勝利の太陽は輝く。
伸一は、フランスの、ヨーロッパの青年たちの姿を思い浮かべ、二十一世紀を仰ぎ見ながら、願い、祈った。
出でよ! 数多の創価巌窟王よ! 君たちの手で、新世紀の人間共和の暁鐘を打ち鳴らしてくれたまえ
太陽を浴びて、海は銀色に光っていた。