小説「新・人間革命」 暁鐘 四十五 2017年10月24日

ビクトル・ユゴーは、独裁化する大統領のルイ・ナポレオン(後のナポレオン三世)によって弾圧を受け、亡命を余儀なくされた。
そのなかで、大統領を弾劾する
『小ナポレオン』『懲罰詩集』を発表し、この亡命中に、大著『レ・ミゼラブル』を完成させている。
フィレンツェを追放されたダンテが『神曲』を創ったように。
彼らが、最悪の状況下にあって、最高の作品を生んでいるのは、悪と戦う心を強くしていったことと無縁ではなかったであろう。
悪との命がけの闘争を決意し、研ぎ澄まされた生命には、人間の正も邪も、善も悪も、真実も欺瞞も、すべてが鮮明に映し出されていく。
また、悪への怒りは、正義の情熱となってたぎり、ほとばしるからだ。
彼が祖国フランスに帰還するのは、ナポレオン三世が失脚したあとであり、亡命から実に十九年を経た、六十八歳の時である。
彼の創作は、いよいよ勢いを増していく。
彼の心意気は青年であった。人は、ただ齢を重ねるから老いるのではない。
希望を捨て、理想を捨てた刹那、その魂は老いる。
「わたしの考えは、いつも前進するということです」(注)とユゴーは記している。
山本伸一は、ユゴーの業績をとどめる上院議場を見学して、蘇生の新風が吹き抜
けていったように感じた。
彼は、この時、思った。
文豪ユゴーの業績を、その英雄の激闘の生涯を、後世に残すために、展示館を設
置するなど、自分も何か貢献していきたい
その着想は、十年後の一九九一年(平成三年)六月、現実のものとなる。
パリ南郊のビエーブル市に、多くの友の尽力を得て、ビクトル・ユゴー文学記念館をオー
プンすることができたのである。
記念館となったロシュの館には、ユゴーが何度も訪れている。
ここには、文豪の精神が凝縮された手稿、遺品、資料など、貴重な品々が公開、展示され、ユゴー人間主義の光を未来に放つ文学の城となったのである。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 ユゴー著『九十三年』榊原晃三訳、潮出版社