小説「新・人間革命」 暁鐘 四十六 2017年10月25日

フランス上院の議場を見学した山本伸一は、公邸で、ポエール議長と会談した。
議長は、創価学会に強い関心をもち、かねてから親しく話し合えることを願っていたという。
また、人間尊重と平和への理念のもと、今回、伸一が、ソ連ブルガリアなど、社会体制の異なる国々を訪問して要人とも会見し、平和・文化交流を重ねていることに対して、共感しているとの感想を語った。
平和のためには、異なる体制、異なる文化の国々との交流が大切になる。
しかし、多くの人は、その交流を避けようとする。
それだけに、彼の行動に議長は着目していたのだ。
伸一は、自らの平和への信念について簡潔に訴えた。
「売名のため、あるいは観念で、平和や生命の尊重を語る人もいるかもしれない。
しかし、平和を切実に願う人びとや、純粋な青年たちは、鋭く見ています。
大切なのは、実際に何をしたかという、事実のうえでの行動です。
私は、その信念で動いています。
そうでなくては、次代を担う青年たちに、平和への真実の波動をもたらすことなどできません。
私は真剣なんです。
創価学会は、戦時中、軍部政府の激しい弾圧を受けました。
それによって、牧口初代会長は獄死し、戸田第二代会長をはじめ、多くの幹部が投獄されています。
また、私個人としても、戦争で兄を失い、戦禍の悲惨さも身に染みています。
だからこそ私は、戦争のない世界を創らねばならないと、生命の尊厳の法理である仏法を信奉し、その平和主義を実現するために、行動しております」
語らいは弾んだ。議長は、自身のレジスタンス運動の体験を語っていった。
話題は、フランス大統領を務めたド・ゴールなどの人物論から、人間の生き方に及び、三時間にわたって意見交換がなされた。
「人間は、自分より不幸な人を助けなければならない」──それが議長の信念である。
平和への共鳴音が、また広がっていった。