小説「新・人間革命」 暁鐘 五十八 2017年11月8日

午後一時に始まった代表者の集いに続いて、五時過ぎからは、三十人ほどの中心的なメンバーと懇談会を行った。
席上、山本伸一は語った。
ニューヨーク州では、『アイ・ラブ・ニューヨーク』をスローガンに掲げていると伺いました。
わが街、わが地域を愛するというのは、すばらしいことです。その心から地域広布も始まります」
そして、さらに、「アイ・ラブ・ニューヨーク創価学会」を、もう一つの合言葉として、互いに尊敬、信頼し合って進んでほしいと訴えた。
そこに、広布推進の要件である団結をもたらす、カギがあるからだ。
このあとも伸一は、青年の代表と懇談した。皆、役員等として、運営にあたったメンバーである。
青年たちの忌憚のない質問が続いた。指針がほしいとの要望もあった。彼は、次代を担う若人の求道心にあふれた姿が嬉しかった。
実は、伸一はニューヨークに到着した翌十七日の朝から、アメリカの青年たちに、指針となる詩を贈ろうと、詩作に取りかかっていたのだ。
青年と懇談した翌日の二十日朝には、推敲も終わり、詩は完成をみた。
この日の午後、伸一は、ニューヨーク郊外のロングアイランドにある、大詩人ウォルト・ホイットマン生誕の家を訪ねた。
伸一がパリからニューヨークに着いた十六日、青年たちから、ホイットマンについての評論集と、その日本語訳が届けられた。
そこに添えられた手紙に、「ホイットマンの生家をぜひ訪問してください」とあった。
彼らの真心に応えたかったのである。
詩人の家は、樹木が茂り、青々とした芝生が広がるなかに立つ、質実剛健な開拓者魂を宿すかのような二階建てであった。
伸一の脳裏にホイットマンの「開拓者よ! おお開拓者よ!」(注)の詩が浮かんだ。
それは、広布開拓の道を征く創価の精神にも通じる、気宇壮大な詩である。伸一も多くの勇気を得てきた。優れた詩は力を呼び覚ます。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 『ホイットマン詩集』白鳥省吾訳、彌生書房