小説「新・人間革命」暁鐘 六十 2017年11月10日

ホイットマンは一八九二年(明治二十五年)三月、肺炎のため、七十二歳で世を去る。
聖職者による葬儀は行われず、友人たちが、仏典やプラトンの著作の一部を読み上げるなどして、彼を讃え、送った。
宗教的権威による儀式の拒否は、詩人の遺志であった。
彼は『草の葉』の初版の序文に記した。
「新しい聖職者たちの一団が登場して、人間を導く師となるだろう」(注)と。
一九九二年(平成四年)三月、ホイットマンの没後百周年記念祭が挙行されることになり、その招聘状が、アメリカのホイットマン協会から山本伸一のもとに届く。
彼は、どうしても出席することができないため、敬愛する民衆詩人ホイットマンに捧げる詩「昇りゆく太陽のように」を作って贈った。
そのなかで、こう詠んだ。
 
「誰びとも 他人の
 主人ではなく 奴隷でもない――
 政治も 学問も 芸術も 宗教も
 人間のためのもの
 民衆のためのもの――
 人種的偏見を砕き 階級の壁を破り
 民衆に
 自由と平等を分かち与えるために
 詩人は
 懸命に 力の限り うたいつづけた」
 さらに、彼は詠う。
 「わが胸にあなたは生きる――
 太陽のように
 満々たる闘志と慈愛をたたえ
 たぎりたつあなたの血潮が
 高鳴りゆくあなたの鼓動が
 私に脈打つ
 熱く 熱く 熱く……」
 
伸一は、ホイットマンの生家を見学しながら、アメリカ・ルネサンスの往時を偲んだ。
そして、自分も、広宣流布という新たな生命のルネサンス運動を展開していくなかで、生涯、人びとのために、励ましの詩を、希望の詩を、勇気の詩を書き続けようと、心に誓ったのである。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 ホイットマン著『草の葉』杉木喬・鍋島能弘・酒本雅之訳、岩波書店