小説「新・人間革命」 暁鐘 六十五 2017年11月17日

一九六〇年(昭和三十五年)、ヒロシ・イズミヤが勤める日本商社の現地法人が設立された。
この年、彼は、日本で知り合ったテルコと結婚した。
彼女は、春にカナダへ渡り、山本伸一のカナダ初訪問の折に、トロントの空港で伸一の一行を迎えたのである。
その後、入会したテルコは、カナダ広布に生きようと思うようになった。
また、学会活動に励むなかで、夫は協力的であるとはいえ、信心しないことが気がかりになっていった。
六四年(同三十九年)の秋、来日した彼女は、カレンという愛らしい女の子の手を引いて、学会本部に伸一を訪ねた。
四年前、お母さんのおなかの中で、一緒に彼を迎えてくれた娘である。
カナダの地で信心を始めたテルコには、辛いこと、苦しいことも、たくさんあったにちがいない。
彼女は、目を潤ませ、語り始めた。伸一は、何度も頷きながら、話を聞くと、力のこもった声で言った。
「日々、大変なことばかりでしょう。しかし、経文に、御書に照らして見るならば、あなたは、久遠の昔に広宣流布を自ら誓願し、地涌の菩薩として、カナダの天地に出現したんです。
この地涌の使命を自覚し、果たし抜いていこうと、決意することです。
その人生こそ最も尊く、そこにこそ最高の歓喜が、最高の充実が、最高の幸福があることを確信してください。
人は、さまざまな宿命をもっています。
何があるかわからないのが人生です。
また、どんなに裕福に見える人であっても、老、病、死という問題は解決できず、心には、不安や悩みをかかえています。
私たちは、あらゆる人びとに、揺るぎない、絶対的幸福境涯を確立する道を教えて、社会、国家、人類の宿命を転換していくという、誰人もなしえなかった未聞の聖業にいそしんでいるんです。
そう思えば、苦労はあって当然ではないですか。
迷いは人を臆病にします。
心を定めることです。その時に、無限の勇気と無限の力が湧きます」