小説「新・人間革命」暁鐘 七十三 2017年11月27日

1813年、アメリカとイギリスの間で、英領北アメリカ(後のカナダの一部)をめぐって、戦争が続いていた。
ローラ・セコールの住むクイーンストンも激戦地となり、夫は英軍として戦い、負傷してしまう。
セコールの家は米軍に徴用され、士官の宿舎として使われた。
そんなある日、彼女は、たまたま、米軍が英軍を急襲する計画を聞いてしまった。
作戦が成功すれば、ナイアガラ半島は米軍の手に落ちてしまう。
なんとしても、この情報を英軍に伝えなければ!
しかし、英軍の基地までは30キロ以上も離れている。
夫の傷は、まだ癒えていない。
ローラは、自ら、この情報を伝えに行くことを決意する。道なき森を必死に進んだ。
しかも敵地である。女性が一人で踏破するには、どれほどの不安と困難があったことか。
彼女の、この貴重な情報によって、英軍は、奇襲攻撃に対して万全な備えをし、米軍に勝利することができたのである。
命がけの行動で危機を救ったローラであったが、長らく、その功績が知られることはなかった。
戦争で不自由な体となった夫が他界したあとも、彼女は、社会の荒波と戦い続けてきた。
ローラ・セコールに、光が当てられたのは、1860年に、イギリス皇太子のアルバートエドワード(後のエドワード七世)が、カナダを訪れた時、彼女の奮闘を聞いてからといわれる。
ローラは既に85歳になっていた。その後も、93歳で世を去るまで、つましい生活は変わらなかった。
彼女の家は、木造の白い小さな2階建てであった。
1972年(昭和47年)に改装されているというが、レンガ造りの暖炉や煙突、また、手織機などが、質素な往時の生活を偲ばせた。
伸一は、深い感慨を覚えながら、同行のメンバーに語った。
「一人の女性の働きが、結果的にイギリス軍を守り、カナダを守った。まさに『必死の一人は万軍に勝る』だ。一人が大事だね」
 
小説『新・人間革命』の主な参考文献
注 Janet Lunn著『Laura  Secorda story of courage Tundra  Books