小説「新・人間革命」 暁鐘 七十五 2017年11月29日

誰からも、賞讃、顕彰をされることがなくとも、仏法という生命の因果の法則に照らせば、広宣流布のための苦労は、ことごとく自身の功徳、福運になる。
仏は、すべて見通している。それが「冥の照覧」である。
したがって、各人の信心の在り方としては、人が見ようが見まいが、自らの信念として、すべてを仏道修行ととらえ、広宣流布のため、法のため、同志のために、勇んで苦労を担い、奮闘していくことが肝要である。
そのうえで幹部は、全同志が喜びを感じ、張り合いをもって、信心に励んでいけるように、皆の苦労を知り、その努力を称え、顕彰していくために心を砕いていくのだ。
山本伸一たちは、ローラ・セコールの家の庭に出た。
そこでも語らいは続いた。
「英軍の勝利は、ローラという、一婦人、一民衆の命がけの協力があったからです。
同様に、すべての運動は、民衆の共感、賛同、支持、協力があってこそ、成功を収める。広宣流布を進めるうえでも、常に周囲の人びとを、社会を大切にし、地域に深く根を張り、貢献していくことが大事だ。
したがって、日々の近隣への配慮や友好、地域貢献は、広宣流布のための不可欠な要件といえる。
社会、地域と遊離してしまっては、広布の伸展などあり得ない。
また、彼女は、負傷した夫の面倒をみながら、子どもたちを育てている。
人間として大切なことは、生活という基本をおろそかにしない、地に足の着いた生き方だ。
それが民衆のもつ草の根の強さだ。そして、その人たちが立ち上がることで、社会を根底から変えていくことができる。
それを現実に成し遂げようとしているのが、私たちの広宣流布の運動だ。その最大の主人公は婦人部だよ」
伸一は、こう言って、テルコ・イズミヤに視線を注いだ。彼女は、大きな黒い瞳を輝かせ、笑みを浮かべて頷いた。
伸一の、この訪問によって、カナダは世界広布の新章節へと、大きく羽ばたいていったのである。