小説「新・人間革命」 勝ち鬨 十一 2017年12月19日

一九一八年(大正七年)六月、板東俘虜収容所で、ドイツ兵の捕虜によって、「第九」の演奏会が行われた。
ベートーベンは、「第九」の第四楽章に声楽を導入し、ドイツの詩人シラーの詩「歓喜に寄す」を使った。
すべての人が兄弟になる──この「第九」のテーマさながらに、徳島の地から、人間讃歌の共鳴音が、友情の調べが響いたのだ。
そして、今、その歌を、創価の婦人たちが、声高らかに歌い上げたのである。
    
 晴れたる青空 ただよう雲よ
  小鳥は歌えり 林に森に……
    
山本伸一は大きな拍手で讃えながら、悪侶の圧迫をはね返した徳島の同志の、勝ち鬨を聞く思いがした。
皆の胸に広宣流布の使命に生き抜く歓喜の火が燃え盛っていること自体が、大勝利の証明にほかならない。
翌十日、伸一は徳島講堂で落成記念の植樹をし、役員などと記念のカメラに納まり、さらに、自由勤行会にも出席した。
日蓮大聖人は、『妙とは蘇生の義なり蘇生と申すはよみがへる義なり』(御書九四七ページ)と仰せです。
ゆえに、その妙法を持った私どもには、行き詰まりはありません。
いかなる窮地に立ち至ったとしても、そこから状況を開き、事態を打開し、みずみずしい、満々たる生命力をみなぎらせて、前進を開始していくことができる。
したがって私たちには、あきらめも、絶望もない。
本来、自身が最高の仏なんです。そう確信していくことが信心の肝要です。
自分を信じ、自信をもって広宣流布に生き、わが地域に、妙法の幸の灯を広げていってください」
この日、彼は香川に向かうことになっており、出発間際まで代表メンバーを励ました。
真剣勝負とは、一瞬一瞬に全力を注ぐことだ。
「『徳島』というのは最高の県名です。功徳の島であり、高い徳のある人が集う島という意義にも通ずる。
この徳島から、四国広布の新しい風を起こしてください!」
 
*小説『新・人間革命』文中の歌詞は、「よろこびの歌」(訳詞=岩佐東一郎)から。JASRAC 出1714648─701。