小説「新・人間革命」 勝ち鬨 二十七 2018年1月10日

大分空港で山本伸一が車に乗ろうとすると、二、三十人の学会員が駆け寄ってきた。手に花束を持っている人もいる。
「ありがとう! 辛い思い、悲しい思いをさせてしまって、すみません。でも、皆さんは、遂に勝ったんです」
伸一は、こう語り、目を潤ませるメンバーに、「朗らかにね!」と、笑顔を向けた。
彼は、空港から真っ先に功労の同志宅へ向かい、一家を激励した。その後、大分平和会館に直行する予定であったが、まず、別府文化会館に行くように頼んだ。
別府は、宗門事件の震源地ともいうべき場所であったからだ。
国道沿いには、あちこちに、車に向かって手を振る人たちの姿があった。
伸一が大分に来ると聞いて、きっと、この道を通るにちがいない。一目でも姿を見たいと、待ち続けていたのであろう。
ガードレールから身を乗り出すようにして、手を振り続ける婦人もいた。
伸一は、その健気さに、胸が熱くなった。
皆さんは、耐えに耐えてこられた。ひたすら広布に生き抜いてきた、この尊き仏子たちを、正信会の悪侶たちは苛め抜いた。絶対に許されることではない。
御本尊、また日蓮大聖人から厳しきお叱りを受けるであろう。今日の、この光景を、私は永遠に忘れない
伸一は、路上に待つ同志を目にするたびに、合掌する思いであった。
日没直前、彼は別府文化会館に到着した。会館の窓という窓に明かりがともされ、たくさんの人影が見えた。
伸一が車を降りると、近くにいた三人の老婦人が声をあげた。
「ああっ、先生! お会いしたかった」
「とうとう来ましたよ。私が来たんだから、もう大丈夫です!」
会館には、二百人ほどのメンバーが詰めかけ、玄関に「先生、お帰りなさい」と書かれた横幕が掲げられていた。
皆、伸一の別府文化会館訪問を確信していたのだ。
邪悪と戦い続た別府の同志たちと伸一は、共戦の魂で強く結ばれていたのである。