小説「新・人間革命」 勝ち鬨 四十九 2018年2月6日

山本伸一は、野中広紀の傍らに立つと、彼の体をさすりながら語りかけた。
「強く生きるんですよ。使命のない人はいません。自分に負けない人が勝利者です」
野中は、慰めではない、生命を鼓舞する励ましの言葉を、初めて聞いた思いがした。
さらに翌日、彼のもとに伸一から、バラの花が届いた。花を手に、生きて今日を迎えられたことに、心から感謝した。
彼が筋ジストロフィーの診断を受けたのは、小学校に入学する前であり、医師からは、六年生まで生きることは難しいと言われた。
入所した療養所から学校に通い、やがて、通信制の高校に進んだ。療養所では、十九人の友が次々と亡くなっていった。
伸一の激励に、彼は決意した。
自分の人生は、短いかもしれない。しかし、一日一日を懸命に生き、自らの使命を果たし抜きたい
──病というハンディがありながら、強く、はつらつと、未来に向かって進もうとする野中の真剣な生き方は、同世代の友人たちに、深い感銘を与えていった。
彼は、県内の高校から、文化祭で講演してほしいとの要請を受け、「生きる勇気」と題して、自分の闘病体験と抱負を語った。
それは大きな感動を呼んだのである。
伸一は、白菊講堂の自由勤行会で、参加者と共に勤行したあと、懇談的に指導した。
日蓮大聖人の仏法は、いかなる世代にも必要不可欠です。
飛行機が大空へ雄飛していく姿は青年時代であり、安定飛行に入って悠々と天空を進む様子は壮年時代といえる。
その間には、乱気流に巻き込まれ、大きな揺れや衝撃を受けることもあるかもしれない。
したがって、安全に飛行し、幸福という目的地に行くには、それに耐え得る十分な燃料と強いエンジン、すなわち大生命力が必要となり、その源泉こそが信心なんです。
また、軌道を外さず誤りなく進むための計器、すなわち確かなる哲理が大切であり、それが仏法という法理なんです」