小説「新・人間革命」 母の詩 19 10月23日

詩「青年の譜」の朗読が、力強く流れる。
 
 「午前八時の 青年の太陽は 今日も昇りゆく! 青年の鼓動にあわせて昇りゆく!」
 
 四段目のスクラムの上に、五段目となる一人の青年が、静かに立ち上がり始めた。観客の誰もが、息を凝らし、祈りを込めて見つめた。
 円塔の頂で、青年は、体を伸ばした。胸を張った。そして、大きく両手を広げた。
 立った! 奇跡は起こった!
 二度目の挑戦という、著しく体力を消耗し、疲弊しきった体で、美事に、五段円塔を組み上げたのだ。割れんばかりの大拍手と、大歓声が体育館を揺るがした。
 円塔の三段目で、歯を食いしばり、肩を震わせながら、こらえ続けていた森川武志は、その大拍手で、五段円塔が立ったことを知った。会場には、「人間革命の歌」の調べが高らかに響いていた。
 皆が、自分に挑んだ。あきらめの心に、無理だという心の弱さに、懸命に挑戦した。そして、それぞれが、自身の心の壁を破って、五段円塔は打ち立てられたのだ。
 山本伸一は、盛んに拍手を送りながら、側にいた男子部の幹部に言った。
 「やったね! 壮挙だね! みんな負けなかった。それが、すごいことなんだ。負けないことが、勝つということなんだ!」
 そして、彼は、メンバーに、こう伝言を託したのである。
 「大変にご苦労様でした。感動しました。
 倒れても、倒れてもまた立ち上がれ――これが、学会精神です。師子の心です。ここにこそ、人生の勝利があります。
 諸君は、この文化祭で、生涯にわたる誇らかな、黄金の思い出をつくった。『青年の譜』を観念でなく、わが五体に、わが人生に刻み込み、不倒の実証を示した。心から『おめでとう!』『万歳!』と申し上げます」
 文化祭終了後、メンバーは、この伸一の伝言を涙で聞いた。そして、互いに抱き合い、「不倒の人生」を誓い合うのであった