小説「新・人間革命」 懸け橋73  10月25日

次いで、トローピン副総長が、感慨をかみしめるように、山本伸一の訪ソの感想を語った。

 「山本先生には、もっとソ連にいていただきたい。滞在は、あまりにも短かったように思えてなりません。

 しかし、この十日間でソ日両国の強いパイプができあがり、平和の土台が築かれました。将来、両国の友好の歴史のなかで、輝きを放ち続ける訪問になることは間違いありません。

 この十日間は、“世界をゆるがした十日間”であったといえます」

 『世界をゆるがした十日間』は、アメリカのジャーナリストであるジョン・リードが著した、ルポルタージュ文学の傑作である。ソビエト政権が樹立されることになる十月革命をつぶさに描いた作品である。

 副総長は、伸一の訪ソを、この本のタイトルにたとえたのである。

 続いて、日本側から、同行メンバーの青年があいさつに立った。

 彼は、ここに集った人たちには、なんとしても伸一の本当の姿を、また、真情を知ってもらいたかった。

 「今日は、私の思いを率直に語らせていただきます。

 山本先生と共に、世界の国々を回るたびに、常に痛感していることがあります。それは、先生が人類の平和を願い、戦争のない世界をつくるために、いかに真剣勝負で臨まれているかということです。

 たとえば、皆さんもご覧になっていたと思いますが、山本先生の部屋は、毎日、午前一時、二時になっても、明かりが消えませんでした。

 なぜか――。それは、ソビエトの民衆の真の姿を、平和を愛する庶民の心を、日本中の、世界中の人びとに伝えようと、黙々と原稿を書き続けていたからです。

 先生は日本に帰れば、多くの行事が待ち受けています。そのスケジュールは過密であり、皆さんの想像をはるかに超えたものであると思います。

 したがって、一瞬一瞬が勝負なのです。私は、その誠実で真剣な先生の行動に、深い感動を覚えております」

 共感の大きな拍手が起こった。

 伸一の動きを、終始、見続けてきたソ連の人たちの、実感でもあったようだ。