2012-01-01から1年間の記事一覧

小説「新・人間革命」厚田 38  2012年7月30日

厚田村は、晴天続きであった。 十月三日も、さわやかな青空であった。 この日は、戸田講堂で、北海道の広布功労者に対する追善法要が営まれた。 物故者に名を連ねる百五十二人は、皆、山本伸一にとって、忘れ得ぬ共戦の同志たちであった。 勤行の導師を務め…

小説「新・人間革命」厚田 37  2012年7月28日

飯野夫妻が、「聖教新聞」の運搬を買って出てくれたことによって、その日のうちに、厚田村、浜益村の同志の手に、新聞が届くようになったのである。 村の同志にとって、それが、どれほど、大きな励みとなり、勇気となっていったか、計り知れないものがある。…

小説「新・人間革命」厚田 36  2012年7月27日

飯野富雄とチヨは、やがて厚田総ブロックの総ブロック長、総ブロック委員の任命を受けた。厚田総ブロックには、厚田村だけでなく、隣接する浜益村も含まれていた。 そのころ、厚田村までの「聖教新聞」の輸送体制は整ったが、浜益村は、依然として郵送であっ…

小説「新・人間革命」厚田 35  2012年7月26日

飯野富雄と妻のチヨは、ある時、厚田地区の初代地区部長であった山内悦郎から、厚田村の使命について聞かされた。 「厚田村はね、第二代会長・戸田城聖先生の故郷なんですよ。 山本先生も、青年時代に戸田先生と一緒に厚田村に来られ、世界の広宣流布を決意…

小説「新・人間革命」厚田 34  2012年7月25日

飯野富雄と妻のチヨは、厚田川の近くで喫茶店を営んでいた。それを聞いた山本伸一は、すぐに飯野の店を訪問することにした。 店の名は「厚田川」で、自宅の一角を改装し、店舗にしていた。 伸一と峯子は、店のカウンター席に腰を下ろし、コーヒーを注文した…

小説「新・人間革命」厚田 33  2012年7月24日

厚田総ブロックの指導委員・飯野富雄は、同総ブロックの初代総ブロック長を務めた、四十代半ばの恰幅のよい壮年であった。黒縁のメガネが、よく似合っていた。 飯野が山本伸一に言った。 「この季節は、ちょうど鮭が遡上して来る時季なんですが、近年、厚田…

小説「新・人間革命」厚田 32  2012年7月23日

山本伸一は、未来会のメンバー一人ひとりに、じっと視線を注ぎながら言葉をついだ。 「順風満帆に生きて、苦労もせずに、成功を収めた人などいません。 失敗も、挫折もなく、人生の勝利者になった人もいません。 泣く思いで苦労に耐え、何度も絶望の淵に立ち…

小説「新・人間革命」厚田 31  2012年7月21日

「人を作れよ、然り、人物を作れよ」(注=2面)とは、思想家・内村鑑三の叫びである。 十月二日の午後、山本伸一は、戸田講堂の食堂で行われた、「北海道未来会」第四期の結成式に出席した。中等部、高等部の代表二十六人からなる人材育成グループである。…

小説「新・人間革命」厚田 30  2012年7月20日

戸田記念墓園の開園式は、会場の広場に立つ、詩「厚田村」の大きな碑に向かって、皆で、この歌を大合唱して終了した。 式典が終わると、山本伸一は風雪に耐え、厚田広布に一途に邁進してきた厚田総ブロックのメンバーと記念のカメラに納まった。 彼は、皆に…

小説「新・人間革命」厚田 29  2012年7月19日

山本伸一は、未来に思いを馳せながら、北海道の友に呼びかけた。 「戸田先生を顕彰するこの墓地公園には、国内にとどまらず、将来は、世界各地から、多くの人びとが来られるでありましょう。 どうか、その意味からも、この厚田に、世界の模範となる、麗しい…

小説「新・人間革命」厚田 28  2012年7月18日

山本伸一は、ここで御書の一節を拝した。 「『法華経を信ずる人は冬のごとし冬は必ず春となる、いまだ昔よりきかず・みず冬の秋とかへれる事を』(一二五三㌻) この御文の意味は、そのまま、この厚田村の風情に通じます。 厚田は、〝北海凍る〟と詩にも詠ん…

小説「新・人間革命」 2012年 7月17日 厚田27

山本伸一のスピーチとなった。 彼はまず、厚田村の村長ら来賓をはじめ、墓地公園建設に携わった関係者に、深い感謝の意を表した。 そして、毅然とした声で語り始めた。 「ホール・ケインの名著『永遠の都』のなかで、主人公のロッシィが綴る手紙の一節に、こ…

小説「新・人間革命」 2012年 7月16日 厚田26

戸田記念墓地公園のオープンを祝賀するかのように、美事な青空が広がり、太陽は白金に燃え輝いていた。 十月二日午前十一時、墓地公園内の戸田記念広場で、北海道の同志の代表ら二千五百人が参加し、墓園の開園式が挙行された。 二日は戸田城聖の命日である…

小説「新・人間革命」厚田 25  2012年7月14日

山本伸一は、元藤商店の数坪ほどの店内に並べられた商品を、次々と購入していった。 「このネギも、キャベツも、それから、あのブドウもいただきます」 さらに彼は、酢、ソース、殺虫剤、菓子、パンなども買った。 店の一隅には、うま味調味料の瓶も並んでい…

小説「新・人間革命」厚田 24  2012年7月13日

山本伸一は、祝賀の集いに続いて県長会に出席したあと、厚田村の望来でブロック長、ブロック担当員として活躍する、元藤徹・トミ夫妻が営む食料・雑貨店に向かった。 彼は、一九六〇年(昭和三十五年)に厚田村を訪問した折、当時、鮮魚店をしていた元藤夫妻…

小説「新・人間革命」厚田 23  2012年7月12日

創価学会として墓園を建設するために、学会本部に、墓苑公益事業部門が発足した時、墓園の三つの基本理念が設けられた。 それは、山本伸一の構想を骨子にして、つくられたものであった。 その第一は、「恒久性」である。 学会の墓園は、永遠の生命観に立ち、…

小説「新・人間革命」厚田 22  2012年7月11日

戸田城聖は、山本伸一と語り合った翌日、西神田の学会本部で行われた男子部結成式に出席した。あいさつに立った戸田は、強い確信を込めて話し始めた。 「今日、ここに集まられた諸君のなかから、必ずや、次の創価学会会長が現れるであろう」 そして、広宣流…

小説「新・人間革命」厚田 21  2012年7月10日

戸田城聖は、戦時中の軍部政府の弾圧で、牧口門下のほとんどが退転していった悔しさ、情けなさを、決して忘れることができなかった。 弾圧の嵐に遭えば、すぐに信念も理想も捨ててしまう、姑息で老獪な人間たちの変わり身の早さに、彼は、痛恨の思いをかみ締…

小説「新・人間革命」厚田 20  2012年7月7日

青年たちの墓地公園の感想を聞いた山本伸一は、力を込めて語った。 「この墓地公園も、みんな青年部の諸君が受け継いでいくんだよ。 青年は、学会の宝だ。どこまでも純粋に、広宣流布という大志、大望をいだいて、勇敢に突き進むことができるからだ。 学会も…

小説「新・人間革命」厚田 19  2012年7月6日

伊藤順次は、日を追って、健康を回復していった。二カ月後、彼は病院を出た。 退院に際して山本伸一は、「おめでとう! 本当に嬉しい。鉄のような頑健な体になってください」との伝言とともに、鉄製の花瓶を贈った。 伊藤は、伸一の真心に泣いた。 その後、…

小説「新・人間革命」厚田 18  2012年7月5日

東京で入院した伊藤順次は、医師から「胃潰瘍と十二指腸潰瘍を併発しています」と告げられた。 彼は、病室で、『一生懸命に信心に励んできた自分が、なんでこんなことになるのだ!』思った。 そこに、副会長の森川一正が、山本伸一からの見舞いの花を持って…

小説「新・人間革命」厚田 17  2012年7月4日

組織の中心幹部が強い求道の心をもち、成長し続けてこそ、後輩も成長していくし、組織も発展していくことができる。 ゆえに、幹部自身が信心の啓発を受けていくための、依処となる『人』の存在が大切になる。 その依処の根本となるのが『師』である。 戸田城…

小説「新・人間革命」厚田 16  2012年7月3日

一人立つ広宣流布の勇者がいれば、魂の炎は、一人、また一人と燃え広がり、赤々と暗夜を照らし出す。 一人立て! すべては一人から、自分自身から始まるのだ。 「自身の周囲を照らし燃やすためには、まず自身が燃えなければならない」とは、ロシアの文豪トル…

小説「新・人間革命」厚田 15  2012年7月2日

小樽問答は、山本伸一の師子吼を思わせる司会で始まり、伸一の言葉通り、学会側が大勝利を収めた。 伊藤順次は、大感動で身が震える思いがした。 創価学会の正義を実感し、生涯、学会とともに生きようと決意したのである。 一九五五年(昭和三十年)八月、小…

 新社会人に贈る ㊦ (2012.5.22/23/24)

──仕事で失敗して、すっかり自信を失ってしまうこともあります。 名誉会長 失敗は、敗北ではありません。いな、青年には、失敗や悩みは、前進の証拠です。前に進んでいるからこそ、向かい風がある。転ぶこともある。でも、それで下を向いてしまわない。また…

 新社会人に贈る ㊤ (2012.5.22/23/24)

新しい人材の活躍こそ社会の希望 仕事と信心は別々ではない。仕事を最大に充実させる原動力が、信心なのです。 名誉会長 はじめに、先日(5月6日)の竜巻で被災された茨城、栃木の皆様方に、あらためて心からお見舞いを申し上げます。 本当に甚大な被害で…

小説「新・人間革命」厚田 14  20 12年6月30日

戸田講堂の開館を記念する勤行会は、山本伸一の詩を歌にした「厚田村」の大合唱で幕を閉じた。 引き続き伸一は、講堂の前で、北海道の広宣流布に尽力してきた功労者らと記念のカメラに納まり、墓地公園内の管理センター前広場で行われた祝賀の集いに出席した…

小説「新・人間革命」厚田 13 2012年6月29日

山本伸一は、凛とした声で話を続けた。 「本日は、『破信堕悪御書』の一節を拝したいと思います。 『釈迦仏は三十二相そな(具)わって身は金色・面は満月のごとし、しかれども或は悪人はすみ(炭)とみ(見)る・或は悪人ははい(灰)とみる・或は悪人はか…

小説「新・人間革命」厚田 12  2012年6月28日

歓喜をはらんだ山本伸一の力強い声が、広々とした畳敷きの講堂に響いた。 「わが同志と一緒に、どこかで静かに眠りに就きたい──この恩師の遺言を、生死不二の原理に照らしていうならば、再び新たなる生命を蘇らせ、共々に広宣流布に戦っていこうとの意味であ…

小説「新・人間革命」厚田 11 2012年6月27日

翌十月一日は、厚田・戸田講堂の開館式の意義をとどめる記念勤行会、祝賀の集いなどの諸行事が行われることになっていた。 朝、山本伸一は、講堂の窓から外の景色を眺めた。雲ひとつない秋空が広がり、色づき始めた木々が、鮮やかに陽光に映えていた。 正午…