2010-01-01から1年間の記事一覧

小説「新・人間革命」 母の詩 34 11月10日

山本伸一は、子に愛を注ぐ母という存在は、戦争に人を駆り立てる者との対極にあり、「平和の体現者」であると見ていた。 彼は、詩「母」のなかで詠んだ。 「だが母なる哲人は叫ぶ―― 人間よ 静かに深く考えてもらいたい あなたたちの後ろにも あなたたちの成…

小説「新・人間革命」 母の詩 33 11月9日

七月十四日、山本伸一に代わって、妻の峯子が、長男の正弘、次男の久弘、三男の弘高と共に、母の幸を見舞った。正弘は二十三歳、久弘は二十一歳、弘高は十八歳になっていた。 「おばあちゃん、早く元気になってよ」 三人が、次々にこう言って、手を握り締め…

小説「新・人間革命」 母の詩 32 11月8日

山本伸一は、母は危篤状態を脱したとはいえ、余命いくばくもないと感じていた。 ゆえに、彼は、この機会に、仏法で説く死生観を、語っておきたかったのである。 「お母さん。また、大聖人は、信心し抜いた人は、『い(生)きてをはしき時は生の仏・今は死の…

小説「新・人間革命」 母の詩 31 11月6日

山本伸一は、母の幸に、日寛上人の「臨終用心抄」を要約して講義し、力強く訴えた。 「日蓮大聖人は、題目を唱え抜いていくならば、成仏は絶対に間違いないと、お約束されています。 伝教大師が受けた相伝にも、『臨終の時南無妙法蓮華経と唱へば妙法の功に…

小説「新・人間革命」 母の詩 30 11月5日

山本伸一の母・幸は、一九七六年(昭和五十一年)に入ってからも、六月には、元気に関西旅行に出かけた。しかし、月末から体調が優れず、床に伏す日が多くなっていった。 七月初旬には、何度か、危篤状態に陥ったのである。 伸一が見舞った時、母は、既に酸…

小説「新・人間革命」 母の詩 29 11月4日

母の幸は、学会本部に来る時には、よく自分で縫った黒い羽織を着ていた。 本部は、広宣流布の本陣であり、歴代会長の精神が刻まれた厳粛な場所である。正装して伺うのが当然である――というのが、母の考えであった。 息子が会長であるからといって、公私を混…

小説「新・人間革命」 母の詩 28 11月3日

山本伸一の父・宗一が他界し、入棺した時、母の幸は、慟哭した。 伸一が、初めて目にする母の姿であった。 彼は、日記に綴った。 「……父との旅。母の心情は、心境は誰人にもわからぬであろう。長い、楽しい、苦しい、旅路であったことであろう。英知、地位…

小説「新・人間革命」 母の詩 27 11月2日

山本伸一の父・宗一は、一九五六年(昭和三十一年)十二月十日、六十八歳で他界した。母の幸と、二人三脚で歩み抜いてきた生涯であった。 伸一は、その日の日記に、こう記した。 「私を、これまで育ててくれた、厳しき、優しき父が、死んでしまった。嗚呼。…

小説「新・人間革命」 母の詩 26 11月1日

明るく、忍耐強かった母。どんな時も、笑顔を失わなかった母――。 山本伸一は、その母が、声を押し殺し、背中を震わせて、すすり泣く後ろ姿を目にしたことがあった。 一九四七年(昭和二十二年)五月、長兄・喜久夫が、ビルマ(現在のミャンマー)で戦死した…

【第4回】 失敗は終わりではない 2010-10-23

池田 両親は、ショーターさんを信じて、愛情深く見守っておられたのですね。その親心を察するとともに、両親に申し訳ないと反省するショーターさんの心を汲んで、学校の先生は新しいチャンスを開いてくださった。 私も、創価学園の草創期、進級が危ぶまれて…

【第4回】 失敗は終わりではない ㊤2010-10-23

苦しみも楽しみに変えられる! SGI会長 音楽は「若き心の戦友」「戦う魂の盟友」 ハンコック氏 人生は自他共のコラボレーション ショーター氏 進歩、前進、向上の喜びを分かち合う 池田 20年前の10月、人権の大英雄マンデラ氏を、私は多くの青年たちの歌…

【第3回】 生命尊厳の響き ㊦  2010-10-9

ハンコック アフリカ系アメリカ人は、奴隷制によって、身にまとった装飾品こそ、はぎ取られましたが、その心臓部は切り取られませんでした。これは、特筆すべきことです。そこからブルース、ゴスペルが生まれ、さらにジャズが生まれていきました。 そして、…

【第3回】 生命尊厳の響き   2010-10-9

万人の心を太陽の方向へ! SGI会長 文化は人間を絶望から救う闘争 ハンコック氏 精神の力は苦難をも歓喜の詩に ショーター氏 諦めより意欲を蘇らせる演奏を 池田 音楽は心を結ぶ。命を開きます。音楽ほど、いかなる差異も瞬時に超えて、魂の一体感を生み…

【第2回】 出会いの共鳴 ㊦   2010-9-18

池田 恐縮の限りです。また、壮大な創作のスケールに感嘆します。ギリシャ神話に登場するプロメテウスは、独裁者ゼウスの怒りを買い、岩に鎖で縛られる。 なぜか──人類に「火」を与え、「言葉」を与え、「音楽」を与え、「文化」を与えたからです。民衆が賢…

【第2回】 出会いの共鳴 ㊤   2010-9-18

人生は「人間への信頼」の芸術 SGI会長 常に「いよいよ、これから」と前進を ハンコック氏 「師のため」「友のため」が創造の源 ショーター氏 「民衆こそ偉大」の哲学から触発 池田 嬉しいことに、ショーターさん、ハンコックさんたちに続き、アメリカ青…

【第37回】 青春の古戦場 山口  2010-10-22

「弟子が勝つ」使命の舞台 関門橋から見下ろす海峡は、晩秋の陽の光を映して眩しいほどに輝いていた。 「いよいよ山口だね」 池田名誉会長が言った。 車の窓をいっぱいに開けて、懐かしい山河にカメラを向けた。 平成6年(1994年)11月25日午後2時…

小説「新・人間革命」 母の詩 25 10月30日

山本伸一は、落下傘で降りてきた米軍の若い兵士がどうなったか、大人たちに聞いた。 ――米兵の青年は、集まって来た人びとに、棒でさんざん殴られたあと、やって来た憲兵に目隠しをされて、連行されたとのことであった。 伸一は、敵兵とはいえ、胸が痛んだ。 …

小説「新・人間革命」 母の詩 24 10月29日

山本伸一の、母の思い出は尽きなかった。 終戦の年となる一九四五年(昭和二十年)の春のことであった。それまで住んでいた蒲田区糀谷(当時)にあった家が、空襲による類焼を防ぐために取り壊しが決まり、強制疎開させられることになった。 やむなく近くの…

小説「新・人間革命」 母の詩 23 10月28日

潮の干満の時刻によって異なるが、海苔を採取するには、午前二時か三時には起床し、朝食をとってから仕事を始める。その食事のしたくをするために、母の幸は、皆より早く、午前一時か二時には起きねばならない。 朝食の後片付けを手早くすませ、母は海苔採り…

小説「新・人間革命」 母の詩 22 10月27日

山本伸一は、横たわる、母・幸の手を、握り締めた。母も、彼の手を握り返そうとしているようであったが、指先が動くだけで、力は感じられなかった。 彼は、持参してきた花束や、母を知る同志からの見舞いの品々を見せ、枕元に置いた。 「ありがとう……」と言…

小説「新・人間革命」 母の詩 21 10月26日

山本伸一は、さらに力を込めて訴えた。 「今こそ、人類は、『人間』という原点に返り、政治優先主義、経済優先主義から、人間性の発露である、文化の復興を優先しなければなりません。 全人類は、人間文化の復興を希求しています。戦争という武力の対極に立…

小説「新・人間革命」 母の詩 20 10月25日

東京文化祭は、フィナーレを迎えた。 舞台正面には、「人間革命光あれ」の文字が、鮮やかに浮かび上がり、頬を紅潮させた出演者が、舞台を埋めた。 高らかに手拍子が鳴り響き、「人間革命の歌」の大合唱が始まった。山本伸一も席から立って、マイクを手に、…

第36回】 広布先駆の誉れ 栃木 2010-10-16

いざや立て 勝ちまくれ 「今日の文化祭の演技は満点です!」 昭和60年(1985年)8月18日、池田名誉会長を迎えて行われた第1回栃木青年平和文化祭。4000人の若人の凱歌が、会場の栃木県体育館に轟いた。 当初、11月の開催で準備が進んでいた…

【第35回】 21世紀の「栄えの国」 佐賀 2010-10-9

真心こもる 友らを忘れじ 「来たよ!」 「13年ぶりだったね」 懐かしい、そして力強い池田名誉会長の声だった。 福岡を車で出発する時には強かった雨脚が、鳥栖、神埼を過ぎるころには小雨となり、到着した午後3時過ぎには、日も差して、有田焼のタイルで…

【第34回】 人材の牙城たれ 宮城  2010-10-4

歴史を飾れ! 青年ならば 青葉の森に 誓いたる 我等の誇り 忘れまじ… 東北の歌「青葉の誓い」の演奏が、横浜港の大桟橋に力強く響きわたった。 昭和57年(1982年)7月19日の午前8時。600人を超える青年を乗せた客船「ゆうとぴあ」号が、颯爽と…

小説「新・人間革命」 母の詩 19 10月23日

詩「青年の譜」の朗読が、力強く流れる。 「午前八時の 青年の太陽は 今日も昇りゆく! 青年の鼓動にあわせて昇りゆく!」 四段目のスクラムの上に、五段目となる一人の青年が、静かに立ち上がり始めた。観客の誰もが、息を凝らし、祈りを込めて見つめた。 …

小説「新・人間革命」 母の詩 18 10月22日

男子部の先輩は、強い語調で、森川武志に語り続けた。 「君は、人と比較して落胆したり、卑下したりする必要なんか全くないんだよ。他人と比べて一喜一憂するというのは、『仏法を学して外道となる』(御書三八三ページ)という生き方だよ。 要は、自分の大…

小説「新・人間革命」 母の詩 17 10月21日

森川武志は、仕事が終わると、男子部の先輩と共に、学会活動に励んだ。 同志は、皆、温かかった。「どんなに辛くとも、頑張り抜くんだ。苦労を乗り越えて、人間は強くなるんだよ」と、力強く激励してくれた。 また、座談会に出ると、「夜中におなかが空くで…

小説「新・人間革命」 母の詩 16 10月20日

五段円塔の二段目が立ち、そして、三段目が立った。だが、波がうねるように、二、三段目のスクラムは揺れている。 “立て! 立ってくれ!” 観客も、祈るような気持ちで、手に汗を握って、舞台を見ていた。 一呼吸置き、円塔の揺れが収まるのを待って、四段目…

小説「新・人間革命」 母の詩 15 10月19日

五段円塔が初めて立った九月四日は、総合リハーサルが行われ、この日は、合計七回、組み上げることができた。 皆、自信満々で、翌五日の東京文化祭の本番を迎えたのであった。 「諸君は、諸君の油断大敵という気持を決してゆるめてはならない」(注)とは、…